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第9回 脱炭素社会実現への取り組み 熊本連携中枢都市圏・地球温暖化対策プロジェクト

 気候変動をもたらす地球温暖化は、環境問題において大きな課題の一つです。大気中に二酸化炭素などの温室効果ガスが増え過ぎたことが原因といわれています。そのため、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「脱炭素社会」実現に向けた動きが進んでいます。

 熊本市と近隣市町村は、「温室効果ガス排出実質ゼロ」を目指すための実行計画を全国の連携中枢都市圏で初めて策定。住民や事業者と一丸となり、SDGsのゴール13「気候変動に具体的な対策を」につなげています。今回は、宇土市と南阿蘇村の実践事例を取材しました。

 

20市町村が連携 脱炭素へ一丸

 熊本市は近隣市町村との連携強化を目的に、2016年に近隣の16市町村(阿蘇市、宇城市、宇土市、大津町、嘉島町、菊陽町、玉東町、甲佐町、合志市、高森町、西原村、美里町、南阿蘇村、御船町、益城町、山都町)と「熊本連携中枢都市圏」を形成。その中で地球温暖化対策プロジェクトを立ち上げ、20年には菊池市を加えた18市町村が共同で「2050年温室効果ガス排出実質ゼロ」、いわゆる「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました。

 カーボンニュートラルに向けた地球温暖化対策を推進するため、21年3月、「熊本連携中枢都市圏地球温暖化対策実行計画」を策定。基本方針として①再生可能エネルギーの利用促進②省エネルギーの推進③脱炭素都市機能と資源循環社会の構築④豊かな自然環境の保全⑤環境意識の向上と環境投資の推進を掲げ、さまざまな分野の施策に取り組むこととしました。

 現在、熊本連携中枢都市圏の地球温暖化対策には、22年に山鹿市、今年10月に玉名市が加わり、20市町村が連携。市町村の担当者会議や、学識経験者、事業者、住民団体などで構成する地球温暖化対策協議会を通じ、都市圏の住民・事業者と協働で取り組みを進めています。

 

宇土市 環境に優しい庁舎へ

自然換気を計算して設計した「うと小路」

 熊本地震で被災後、今年5月に完成した宇土市役所の新庁舎。1階の東・西・南の玄関をT字につなぐ「うと小路(こみち)」と名付けられた通路に立つと、時折、爽やかな風を感じます。玄関ドアや通路天井の換気窓の開閉による自然換気のおかげです。「宇土は地理的に北西からの風が強く、うと小路はその風を取り込めるような設計にしています」と同市財政課庁舎建設推進室の甲斐裕美さん(56)。

宇土市役所西面に設置された日射抑制の縦ルーバー

玄関上部の換気窓

 建物内には温度センサーが設置されており、設定した温度になるよう換気窓の開閉や空調の強弱の変更が自動で行われるそう。自然エネルギーを活用した効率的な温度調整によって、冷暖房への負荷を抑える仕組みです。他にも、太陽光発電システムや雨水を雑用水に利用するための雨水槽、西日の日射を抑制する縦ルーバー、人の周りだけを適温に保つ効率的な床吹き出し空調の導入など、消費エネルギー抑制のための工夫が随所にあります。「自治体は地域のリーダーとして地球温暖化対策に取り組んでいくべきと考え、環境に優しい庁舎を目指しました。一つのモデルとなり、市民の方々への啓発につながればうれしい」と甲斐さんは話します。

 

南阿蘇村 初の地熱発電所

旧阿蘇観光ホテルの跡地に立つ「南阿蘇湯の谷地熱発電所」

 新阿蘇大橋から車で20分ほどの山あいに今年3月、南阿蘇村初の地熱発電所「南阿蘇湯の谷地熱発電所」が誕生しました。再生可能エネルギー事業などを手掛ける「フォーカス」(東京)などが建設。南阿蘇村は地熱資源の活用に関する条例を施行したり、阿蘇山西部地域地熱資源活用協議会を発足したりするなどして支援しました。発電規模は約2000㌔W、年間発電量は約1480万㌔Wh(約3200世帯の使用電力に相当)です。

 地熱発電とは、マグマの熱エネルギーによって高温になった地下水や蒸気を井戸から取り出し、その蒸気の力でタービンを回して発電する仕組みです。二酸化炭素が発生せず、天候を問わず24時間発電可能。取り出した温水は地中へ戻すことで繰り返し利用できるというメリットもあります。運営会社の「南阿蘇湯の谷地熱」取締役の渡辺英樹さん(50)は、「南阿蘇村の支援のおかげで、地域に期待される地熱発電所を創業できました。熊本地震からの“復興のシンボル”との声もいただいています。今後も村と相談しながら、地域の皆さんに“あって良かった”と思ってもらえる施設にしていきたい」と話します。

旧ホテルの電線を有効活用

地下水と蒸気を取り出す井戸

 南阿蘇村水・環境課の田上義明さん(53)は、「日本は世界第3位の豊富な地熱資源量を持つとされ、本都市圏も阿蘇の火山と豊富な地下水により、地熱発電のポテンシャルが非常に高い地域」と話します。阿蘇の火山や草原などで涵養された地下水が、自然エネルギーや子どもたちの学習の機会創出など地域の新しい恩恵となっています。

 

 


ココがポイント!

補完・波及効果で推進力アップ

 今年2月に開催された熊本連携中枢都市圏地球温暖化対策協議会では、2050年の温室効果ガス排出実質ゼロに向け策定したロードマップに沿って、2022年度の進捗状況が報告されました。

 そこで明らかになった連携中枢都市圏による共同策定の効果として補完効果と波及効果が挙げられます。各自治体で地域資源を最大限活用した施策を推進し、弱みとなる部分は他の自治体が補完。また、特定の自治体の施策で効果が得られた場合、そのノウハウを他の自治体へ水平展開するのです。このような補完効果と波及効果によって、都市圏全体で脱炭素社会を実現しようとしています。

 さらに、圏域全体で温室効果ガス排出削減の進捗状況と各自治体の脱炭素化に向けた活動状況を把握することで、単独で実施している自治体より施策推進効果が高まることも期待されます。

 

 

 

熊本大学大学院 先端科学研究部

教授 鳥居 修一さん

熊本連携中枢都市圏地球温暖化対策協議会委員