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第7回 廃棄物を出さない養豚プロジェクト 熊本県立熊本農業高校

 熊本農業高校(熊本市)が2017年から進めている「養豚プロジェクト」。この取り組みは、食品廃棄物で作る飼料「エコフィード」を開発して豚を育てることで、養豚業におけるゼロエミッション(廃棄物を一切出さない資源循環型の社会システム)の実現を目指すものです。「つくる責任 つかう責任」などのSDGsのゴールにつながっており、「くまもとSDGsアワード2022」で未来づくり部門大賞、「SDGs Quest みらい甲子園」県大会で最優秀賞を受賞しました。

 

持続可能な畜産経営を実践

 10月4日、生徒たちの元気な声が響く放課後の熊本農業高校。畜産科の豚舎では、「養豚プロジェクト」に取り組む生徒たちが、飼育する20数頭の豚に食品廃棄物で作った飼料「エコフィード」を与えていました。プロジェクトメンバーは3年生2人、1・2年生各3人の計8人。3年生は課題研究として授業時間に、1・2年生は放課後に集まって活動しています。

豚舎で給餌(きゅうじ)する生徒たち。「養豚はとても楽しいので、将来はこの仕事に就きたいです」と2年生の坂本湧規さん(右端)

 プロジェクトが始まったのは2017年。課題解決学習のテーマを決める際、教員で畜産科・養豚担当の千原康弘さん(37)が「輸入飼料の価格高騰による畜産業界の苦境を解決できないか」と提案したのがきっかけでした。まず取り組んだのが、食品廃棄物で作る飼料「エコフィード」の開発です。県内の食品企業から納豆や落花生、ノリ、米粉など17種類の食品廃棄物を調達し、新しい飼料を開発。同校で飼育する豚に180日間与えたところ、市販飼料での飼育に比べ1頭当たりの飼料費を2万2692円削減できました。さらに、熊本県産業技術センターで肉を分析すると、肉質と栄養価が向上していることも分かり、食品廃棄物だけで豚を育てる技術を確立しました。「本校だけで取り組むのではなく、ここ数年は、食品企業と畜産農家を仲介するなどエコフィードの普及活動にも取り組んでいます」と教員で顧問の松本凌弥さん(25)。養豚農家は飼料費の削減と豚の発育向上に、食品企業は食品廃棄物の処分費の削減につながっており、双方に利益を生み出しています。

 

活動に企業が注目

 同校が食品廃棄物を提供してもらっている企業の一つが、サンドイッチ専門店「イートン」(熊本市)です。2年ほど前は1日に45㍑のゴミ袋4〜5袋分のパンの耳を廃棄していました。もったいないので何かに活用できないかと考えていた時に養豚プロジェクトを知り、同校に問い合わせたそう。スタッフの伊東由香さん(42)は「まだ食べられるものを捨てるということに抵抗感があり、処分に費用もかかっていましたが、その両方を解決してくれる素晴らしい仕組み。いずれは養豚プロジェクトのお肉を使ったサンドイッチを作れたらいいですね」と、さらなる循環にも期待しています。

 

せっけんも開発

 同プロジェクトでは豚脂(とんし)(豚の脂)で作る洗濯せっけんも開発しました。肉を成型する際に豚脂が大量に廃棄されていることを知った生徒の「もったいない」という声から開発がスタートしたそうで、完成まで約4年を費やしました。汚れの落ちる度合いや環境に与える影響などを既存商品と比較して数値化し、品質の高さと環境負荷の少なさも証明しています。

集めた食品廃棄物をかくはん機に入れ、エコフィードを作ります

 「エコフィードやせっけんの原料は廃棄物とされているものです。廃棄物を資源と捉えることで考え方や行動は変わると思います」とプロジェクトメンバーの原田里佳子さん(2年)。奥村佑香さん(1年)はプロジェクトを通して「日頃からゴミの分別や食品ロスの削減を心掛けるようになりました」と話します。

 11月11日(土)に開催される同校の文化祭「南園祭」では、同プロジェクトから生まれたブランド豚「シンデレラネオポーク」やせっけんを販売。取り組みや高校生の頑張りを身近に感じられる機会になりそうです。時間など詳しくは同校☎096(357)8800へ。

 


ココがポイント!

2つの社会課題を同時解決

 熊本農業高校畜産科の生徒たちが主体となって、飼料費と食品廃棄物の削減という2つの社会課題の同時解決を実現した行動力は、大変素晴らしいと思います。先輩方のプロジェクトを受け継ぎ、さらに発展させてきた長年の研究成果でもあります。専門学科の強みを生かし、課題分析力と精緻な定量化で経営的にも成り立つ結果を導き出したことは、「SDGs Quest みらい甲子園」の全国交流会でも高い評価を得ました。

 近年、高等学校では、SDGs探究学習に取り組む生徒たちが増えています。その学びを支援し、若者と一緒に社会課題の解決に取り組む企業や行政、大学などの研究機関や民間団体の活動が広がることも期待されています。

 

熊本大学大学院 教育学研究科

教授 宮瀬 美津子さん

NPO法人くまもと未来ネット理事