SDGs朝刊特集 掲載記事アーカイブ

第5回 「やさしい日本語」教室   菊池市立図書館

菊池市立図書館は市内にある中央図書館、泗水図書館、七城図書館、旭志図書館の4つの図書館の総称で、多文化共生社会実現に向けた活動に力を入れています。「やさしい日本語」を外国人らに教えたり、外国人と市民が一緒に日本の文化を体験する交流会「にほんごカフェ」を開いたりするなど、取り組みはユニーク。「人や国の不平等をなくそう」や「住み続けられるまちづくりを」などのSDGsのゴールにつなげており、「くまもとSDGsアワード2022」で優秀賞を受賞しました

 

多文化共生  外国人と交流

 7月30日、中央図書館2階にある菊池市中央公民館では、同市在住の外国人向けに「やさしい日本語」を教える教室が開かれていました。「やさしい日本語」とは、外国人も日本人も分かりやすいよう、「はっきり言う」「最後まで言う」「短く言う」などを意識して整えた日本語のこと。この日は本年度1学期の最後の授業で、フィリピン人、インドネシア人、ベトナム人、韓国人ら9人が参加。日本語講師の坂本紀仁さん(43)が文法の講義をした後、参加者は1人ずつ「自分の好きな日本」「自分のふるさと」「得意なこと」について日本語で発表しました。

「にほんご教室」の参加者。日本を含め5カ国の人たちが集い、交流しました=7月30日、菊池市中央公民館

 昨年7月から技能実習生として市内の企業で働いているベトナム人のチャン・ティ・フエンさん(21)は同国中北部に位置する生まれ故郷・ハティンについて紹介。「この教室で日本人と外国人の友達ができました。菊池市での生活はすごく楽しい」と笑顔で教えてくれました。

 教室では、外国人が日本人と1対1で話せる環境をつくるために、市民がボランティアスタッフとして参加しています。この日は高校生から60代まで5人が参加。3年前から参加している原祐一さん(69)は、「日本語を勉強し、日本になじもうと努力している外国人の姿に感心します。この教室は外国人の助けになり、私自身の刺激にもなっています」と話します。

 

学び合いを大切に

 2009年にユネスコ総会で承認された「国際図書館連盟/ユネスコ多文化図書館宣言」では、

①人種や国籍などを問わず全ての人が図書館を平等に利用できる

②通常のサービスや資料の利用ができない人々には特別なサービスと資料が提供されなければならない

―ことがうたわれています。菊池市立図書館は2018年から多文化共生を目指した取り組みをスタート。館長の安永秀樹さん(60)は、「図書館は本来、外国人の生活やコミュニケーションの支援にも対応すべき施設なのです」と話します。

 当初は英語に触れる機会を増やす取り組みを考えましたが、調査により菊池市に暮らす外国人の9割が東南アジア系の外国人で、農業や工業の技能実習生だと判明。英語圏以外の外国人が多く、日々の生活やコミュニケーションに困っていることが分かりました。そこで、外国人同士、外国人と日本人のつながりづくりを重視した方が良いと考え、5年前に「にほんご教室」をスタート。市民や行政職員向けの「やさしい日本語」講座も開き、市民への啓発にも力を入れています。

 「多文化共生と聞くと少し敷居が高く、いろいろな国の言葉や文化を学ばなければいけないと思いがち。そうではなく、分かりやすい日本語で話せば外国人とコミュニケーションが取れ、相手を理解することができます。お互いに学び合い、理解し合っていくことで“国境のない菊池市”を実現していくことが私たちの目標です」と安永さん。その一環として、外国人が日本の文化を学んだり体験したりする「にほんごカフェ」や、外国人がやりたいことを話し合い、自由に取り組める交流会も開催しています。

「にほんご教室」で発表する参加者たち=7月30日、菊池市中央公民館

 

子どもの目を世界へ

 もう一つ、同図書館が多文化共生に取り組む大きな理由があります。菊池市の子どもたちに海外に目を向けてほしいという思いです。「菊池市にいながらにして海外交流ができることを知ってもらい、そこから踏み出していってほしい」と安永さん。実際に「にほんご教室」にスタッフとして参加し、後にベトナムで日本語教師になった人や、外資系企業に就職した人たちもいるそう。同図書館の取り組みは、未来のグローバル人材の育成にも貢献しています。

 


ココがポイント!

私たちは「地球市民」

 地球は80億人もの人々を乗せたたった一隻の船、私たちはそこに暮らす「地球市民」です。

 さまざまな属性を持つ日本語教室参加者も「思想や宗教、食べ物や文化の違いがあっても、私たちはつながっている」と語ります。

 80億人がつながっているからこそ、SDGsでは、「誰一人取り残さない」ことを誓い、「排除」の対義語である「包摂」という言葉が頻繁に登場します。

 私たちが、心の中に彼我の境を築き、異質な者を排除しがちだからでしょう。

 「相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて世界の諸人民の間に疑惑と不信を起こした」と反省し、心に築くべきは「平和のとりで」だと訴えるユネスコ憲章の言葉を改めて思い起こしたいものです。

 

 

 

一般財団法人くまもとSDGs推進財団

理事

成尾 雅貴さん