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第4回 脱炭素社会への取り組み 天草高校科学部

天草高校(天草市)の科学部は75年の歴史を持つ部活動です。天草の自然や生き物を対象に、部員36人がテーマごとに班に分かれて研究しています。その一つが、海草「アマモ」の研究です。海中の二酸化炭素を吸収し酸素を排出するアマモを増やし、バイオ燃料にも活用することで脱炭素社会への貢献を目指しています。生徒の研究は、「海の豊かさを守ろう」「気候変動に具体的な対策を」といったゴールのほか、「質の高い教育をみんなに」にもつながっています。

 

アマモ研究 天草の海を豊かに

 7月3日の夕方、天草高校の地学室では科学部の部員たちがグループに分かれて熱心に話し合いをしていました。アマモと魚を飼育する水槽の近くにいたのは、アマモ研究班の3年生の石原裕大さん、山﨑敦貴さん、倉田玲美さん、金子鈴さんです。

 アマモは海草の一種で、北半球の温帯から亜寒帯にかけて広く分布しています。研究班によるとアマモは海の生き物たちのすみかや産卵場になり、光合成で二酸化炭素を吸収し、酸素を排出するので地球温暖化対策の面でも注目されています。生徒たちの関心は高く「すごい海草なんです」と石原さんは目を輝かせます。しかし、地球温暖化による海水温度の上昇が原因で、アマモの数は減少しているそうです。

 

アマモと魚を飼育している水槽の酸素濃度を測定する研究班。左から、山﨑敦貴さん、倉田玲美さん、石原裕大さん、金子鈴さん

バイオ燃料の開発も

 そこで研究班は①たくさんのアマモが生育する「アマモ場」を増やす②アマモがよく育つように専用肥料を開発する③枯れたアマモを活用して環境負荷の少ないバイオ燃料を開発する―の3つを柱に、1年時から研究をスタート。カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量実質ゼロ)を目指し、天草市倉岳の海のアマモ場を調査して多く生息する理由を探ったり、枯れたアマモを発酵させてバイオエタノールの精製に挑戦したりして研究をしてきました。

 また、2021年10月と22年8月には天草市と共催で環境シンポジウムを開催。研究発表、アマモ定植体験会、市民との意見交換会など、情報発信や仲間づくりにも力を注いでいます。

天草市の海でアマモ場の現地調査をする研究班

身近なことが一歩に

「当初、SDGsについて詳しくは知らなかった」とアマモ研究班の4人は口をそろえます。「生き物に興味があった」「天草の海が好きだった」といった理由で入部。しかし、アマモ研究で天草の海を豊かにし、地球温暖化の抑制を目指すうちに他の環境問題や課題にも関心を持ち始めました。

 例えば、石原さんは海岸に落ちているプラスチックごみを見て海洋汚染問題に興味を持ち、倉田さんは天草の海で見かける魚の種類の変化に気付き、海水温度の上昇への危機感が高まったそう。「SDGsのゴールは17もあるので、何げないことでもどれかにつながっていると思います。何をすればよいか分からないという人は、“身近なこと、思いがけないことがSDGsにつながっているかも”という意識を持つだけで大きな一歩になるのではないかと思います」と倉田さんは語ります。

 アマモ研究班の取り組みは昨年12月、「くまもとSDGsアワード2022」未来づくり部門で優秀賞を受賞しました。また、ホタル研究班は中高生の国際科学アイデアコンテストで金賞を受賞し、7月末にシンガポールで発表予定です。

 同部顧問の宮﨑一教諭(44)は「地域を見つめることがSDGsにつながる」と話します。地域の魅力を伸ばし、課題を解決していくことで、より良い未来を実現できるからです。「大学や社会人になっても、科学部で学んだ課題解決の手法は大きな力になるはず」と生徒たちにエールを送ります。

 


ココがポイント!

SDGsの視点身に付けた社会人に

SDGsの17の目標は相互に関連しており、ひとつの取り組みが同時に複数の目標達成につながることが多いです。天草高校科学部のアマモ研究は、海の豊かさを守り(目標14)、気候変動への具体的な対策を目指す(目標13)取り組みであり、また持続可能な社会の実現に不可欠な質の高い教育・人材育成(目標4)の場にもなっています。

 近年、教育現場では、SDGsをテーマとした探究学習や活動が盛んになっています。企業や自治体、大学などの研究機関においてもSDGsに取り組む必要性が高まっており、知識や技能を身に付けた人材の重要性が増しています。SDGsの視点を身に付けることは、生徒たちが将来社会で活躍するためにも大切です。

 

 

 

 

熊本大学大学院 教育学研究科

教授 宮瀬 美津子さん

NPO法人くまもと未来ネット理事