SDGs朝刊特集 掲載記事アーカイブ

第3回 地下水保全活動 肥後の水とみどりの愛護基金

 熊本県は地下水に恵まれ、中でも熊本市は市民の水道水の100%を地下水でまかなう日本有数の「地下水都市」です。しかし近年、地下水の量は減少傾向にあります。雨水を地中に浸透させて地下水を育む水田や森林などの面積の減少が要因の一つです。そこで「肥後の水とみどりの愛護基金」(熊本市)は1987年から地下水保全と、それを涵養(かんよう)する森林や水田の維持・育成活動を続けています。また、県民が地下水に関心を持つ機会の創出にも努めており、「くまもとSDGsアワード2022」で特別功労賞を受賞しました。

 

棚田で学ぶ 持続可能な水資源

 5月13日の朝。大粒の雨が降る中、阿蘇市北部の「阿蘇水掛の棚田」に子どもから大人まで327人が集い、田植えをしました。

「阿蘇水掛の棚田」で田植えをした参加者たち。泥だらけになりながら地下水の大切さを学びました 

 

 ここは長年、耕作放棄地となっていた棚田で、「肥後の水とみどりの愛護基金」が2011年に地下水涵養を目的に復活させました。規模は棚田67枚、面積は1.98㌶です。毎年、民間企業がボランティアで参加し、従業員やその家族、関係者で田植えや稲刈りをしています。このSDGs湛水事業は初年度(2021年)、協力企業2社でスタートし、年々数が増加。本年度は熊日を含む13社が参加しました。

 家族4人で参加した有田有紀さん(八代市)は、「子どもと一緒に泥だらけになって田植えをして、いい思い出になりました。地下水のことや田んぼのことを子どもへ伝えられたので、参加して良かった」と話してくれました。長女の桜さん(小学4年)と次女の碧さん(小学2年)も「楽しかった!」と笑顔を見せます。

 

笑顔で田植えに励む子どもたち

 

学校へ出前授業も

 「地下水について広く知ってもらい、身近に感じてもらえる機会をつくることを大事にしています」と話すのは、同団体の専務理事の大野芳範さん(64)です。この日も田植え前に参加者へ地下水の価値や仕組みについて説明しました。また、インスタグラム(@aigokikin)で地下水に関する情報や稲の生育状況も発信中。稲の育成期間を通して、各水田の地下水涵養量を計測して数値で表し、どれくらい地下水保全に貢献できたかの“見える化”にも取り組んでいます。その他、熊本市内の小中学校で水質調査の方法や地下水が湧き出る仕組みを教える出前授業や、県外から来熊する修学旅行生への地下水の講義、県民参加型の環境講座の開催(年3回)など、多岐にわたる地下水保全の啓発活動をしています。

 大野さんは「地下水保全は持続可能な活動でなければいけない」と強調します。地下水を使い続けるためには、使用量と涵養量のバランスを考える必要があるからです。そのためにも「次世代に地下水を理解してもらい、一緒に保全していく仲間になってもらいたい」と大野さんは呼び掛けます。

 

足元にある“貯水池”

 地下水涵養のため、私たちには何ができるのか。大野さんはまず、地下水の仕組みをイメージすることから始めてほしいと話します。「雨水が阿蘇の地中にしみ込み、20〜50年かけてろ過されながら流れ、江津湖で湧き出る様子を想像してみてください。すると、私たちが暮らしている場所の下に地下水があることをイメージできるはずです。いわば私たちは“貯水池”の上で生活しているのですが、そのことに気付いていない人が意外と多い。すぐ下に“貯水池”があることを知れば、暮らしの中で生活排水などにも気を使うようになると思います」とアドバイスします。

 同団体は「お家でできる水にまつわるSDGs」と題したパネル展を肥後銀行の熊本市内44店で巡回展示中です。節水・排水で地下水を守る方法や、雨水をゆっくり地中に浸透させる庭空間「雨庭」づくりなどを紹介しています。自分にできる「水保全」を見つけるきっかけになりそうです。

 

 


ココがポイント!

地下水は熊本のまちづくりの土台

 豊富な地下水は熊本のまちづくりの土台です。自然環境はもとより地域社会を豊かにし、さらには経済発展のために積極的に利活用されてきました。

現在、巨大な半導体工場進出と関連産業振興に沸く熊本ですが、その根幹に世界的にも付加価値の高い水資源があり、利活用だけでなく持続的な保全と循環に向けて一人一人が学びを深め実践することが求められます。持続的な地下水の在り方は、環境保全と社会発展のバランスの取れた熊本版SDGsの試金石としても注目されています。

 「肥後の水とみどりの愛護基金」が長年にわたって積み重ねてきた涵養・保全活動とそのネットワークはその象徴であり、地下水と共にある私たちの暮らし方の道しるべとなっています。

 

 

 

くまにちSDGs アクションプロジェクト

アドバイザー 澤 克彦さん

EPO九州(九州地方環境パートナーシップオフィス)