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第2回 子ども食堂「こどもキッチンブルービー」

 「子ども食堂」は、子どもらに無料または低額で食事を提供する食堂で、その多くは地域住民が運営しています。経済的に苦しい家庭のサポートや、子どもが一人で食事をする「孤食」の解消を目的としていますが、住民同士の交流を育む場としても注目を集めており、その数は増加しています。今回は県内の子ども食堂の草分け的存在である「こどもキッチンブルービー」(熊本市南区)の活動を通して、私たちができるSDGsのアクションについて考えます。

 

食事を通して 豊かな地域づくり

 4月29日の昼、熊本市南区川尻の加勢川近くにある「こどもキッチンブルービー」の拠点の町家には「おいしい!」と、明るい笑い声があふれていました。この日は、これまで拠点としていたJR川尻駅近くの店舗から現在地への移転オープンを記念したイベント当日。手作りの昼食と、ヨーヨー釣りや射的などが用意され、訪れた子ども70人と大人30人が楽しい時間を過ごしました。

 ブルービーの運営メンバーは男女6人。代表理事の松枝清美さん(50)が、子育て中のお母さんたちのよりどころをつくりたいと思い立ち上げました。知り合いの有機野菜の生産者から「規格外で販売できない野菜を有効活用できないか」と相談され、自身が子どもの頃に貧困に直面した経験から、子ども食堂に取り組むことを決意。2016年2月、第1回の子ども食堂を開きました。作る料理はさまざま。支援食材を活用し、栄養バランスを考えて調理しています。

食事の準備をする代表理事の松枝さん(右)らブルービーのスタッフ。松枝さん以外は、普段は保育士や介護士、学校職員として働いており、子ども食堂の開催日に集まって活動しています

 

より良い地域づくりに

 活動を続ける中で、松枝さんは子ども食堂が利用者や地域に与えるさまざまな良い影響を実感したといいます。例えば、保育園で友達と一緒に昼食を食べることが苦手だった子どもが、ブルービーを利用するうちに保育園でも友達と楽しく食事できるようになったそうです。「ここでの食事が楽しく、地域の子どもたちと過ごしたのが良かったのだと思います。その子の成長を手助けできる場所になれたようです」とほほ笑みます。

 また、近隣住民がブルービーに顔を出したり、支援者が子どもたちと交流したりすることもあり、それが高齢者の生きがいづくりや、住民同士の見守りにもつながっていると話します。子ども食堂は毎月第1・3土曜日に開催。今後は平日に誰でも気軽に立ち寄ってコーヒーを飲んだり、放課後に子どもたちが立ち寄ったりできる場所として開放し、交流を育む場としてさらに充実させていくそうです。

 

関心を持つことが支援

 「全国こども食堂支援センターむすびえ」の調査によると、県内には148カ所(5月17日現在)の子ども食堂があります。2020年の調査では81カ所で、約3年で2倍近くに増えました。県内の子ども食堂の支援をしている「熊本県こども食堂ネットワーク」代表理事の島田万里さん(74)は、「それだけ必要性を感じている人が増えているのでしょう。地域のつながりが希薄になってきている現代だからこそ、多世代が集まってコミュニケーションをとれる子ども食堂は地域の縁側的な存在であり、地域づくりの重要な場所になりえるのです」と話します。

子ども食堂のイベントで食事を楽しむ子どもたち

 とはいえ、県内45市町村のうち13市町村にはまだ子ども食堂がありません。同ネットワークは県内の各校区に少なくとも1カ所は子ども食堂が設置されることを目標にしています。

 また、子ども食堂は主に市民が自発的に運営しているため、スタッフの金銭面・体力面での負担が大きいことも大きな課題です。「子ども食堂に関心を持って、できるだけ多くの方に支援してもらえるとありがたい」と島田さん。ブルービーの松枝さんは「難しく考えず、まずは一度、子ども食堂に来てほしい。関心を持っていただくだけでも支援になりますから。実際に子ども食堂を体感していただいてから、皆さんができる支援で寄り添っていただければうれしいです」と呼び掛けます。


ココがポイント!

多様な関わりづくり 大切に

 「子ども食堂」と聞くと、経済的な困窮や課題をイメージしがちです。しかし、今私たちが抱えているさまざまな課題の根幹には、「コミュニケーションの貧困」があり、孤立しがちな一人一人の状況に応じた多様な関わりづくりが求められています。多様化する社会の中で豊かに生きるには、一律の場や機会だけでは誰かが取り残されてしまい、知らず知らずのうちに相対的な孤立を加速させる可能性があります。「子ども食堂」は多様な関わり方の一つとして、より良く・より豊かに生きる「ウェルビーイング」の実践の場としても位置づけられます。

 

くまにちSDGs アクションプロジェクト

アドバイザー 澤 克彦さん

EPO九州(九州地方環境パートナーシップオフィス)