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第1回 盲学校向け教材開発 熊本大工学部のサークル「ソレイユ」

SDGsなくらし

 新連載「SDGsなくらし」では、SDGsをより身近に感じてもらえるように、県内の学生や市民団体などが取り組む、より良い未来を実現するための活動を紹介します。初回は、目の不自由な子どもたち向けの学習教材を開発している熊本大工学部公認サークル「Soleil(ソレイユ)」です。学生たちの「ものづくり」への探求が、「質の高い教育をみんなに」をはじめとしたSDGsのゴールにつながっています。

 

「ものづくり」で教育の質向上に貢献

 春休み期間中の3月30日。熊本大学の黒髪南キャンパス内にある20畳ほどの「ソレイユ」の部室では、学生3人が新年度の活動を話し合っていました。3人は部長の橋本碧さん(工学部材料・応用化学科3年)と、副部長の兵藤志帆さん(同学科3年)、副部長の森本真由さん(工学部機械数理工学科3年)です。

 ソレイユは目の不自由な子ども向けの学習教材を開発し、その教材を盲学校へ寄贈する活動に取り組むサークルです。同大技術専門職員の須惠耕二さん(56)が県立盲学校を視察した際に、子ども向けの教材が不足していると感じて2011年に前身の団体を設立。17年に同大工学部公認サークルとなりました。

 近年は工学部だけでなく教育学部や理学部の学生らも所属しており、部員は30人ほど。これまでに約20種類の教材を開発してきました。

 

左から、ソレイユ顧問の小林牧子教授、部長の橋本碧さん、副部長の兵藤志帆さ んと森本真由さん、技術専門職員の須惠耕二さん

 

広い視点でものづくり

 昨年度に手掛けた教材の一つが、遊びの中で空間認識を学ぶ教材「おしゃべりボールぽん!」です。「ピピッ」と電子音を発する回路を組み込んだボールと、ボールが当たった位置を「左上」など音声で教えるパネルからなります。ボールをパネルに投げると、まず音でボールの軌道を認識でき、次にパネルの音声でパネルとボールの位置関係を認識できる仕組みです。全国の盲学校の36校が導入を希望しており、順次寄贈しています。

 この教材は橋本さんらが2年前から開発に取り組んできました。「初めてチャレンジしたものづくりでした。目の不自由な子どもたちにとって分かりやすく、学校の先生たちが取り扱いやすい教材にする必要があり、試行錯誤したので完成した時は感動しました」と3人はほほ笑みます。

 ソレイユは今や視覚障害児や学校関係者にとって欠かせない存在となっています。しかし、部員たちは「入部した当時は、作っているものの目的や役割は詳しく把握していなくて…」と振り返ります。

 その後、活動を続けるうちに心境に変化が生じてきました。視覚障害者は日常生活を送る上でどういう感覚を大事にしているのか、どんなものがあったら暮らしが便利になるのか、など考える機会が増えたのです。「目の見えない人にとって危険な部分がないかなど、広い視点を持ってものづくりができるようになりました」(森本さん)、「ものづくりにおいて、使う人への思いやりが大切なのだということを学びました」(兵藤さん)と話します。

現在は目の不自由な人が白杖(はくじょう)の使い方を学べる教材を開発中

 

多様性の大切さを養う

 同サークルの顧問で同大大学院先端科学研究部の小林牧子教授(49)は、「教材の開発は教育の質を高めることにつながるだけではない」と強調します。目が見えないという自分たちと異なるバックグラウンドを持った人たちを思いやる気持ちを育み、多様性や包括性の大切さを養うことにもつながりました。

 「使う人のニーズを考えてものづくりをすることはエンジニアリング教育において重要なこと。SDGsのゴール9『産業と技術革新の基盤をつくろう』にもつながっていくはずです」と、小林教授は学生たちの成長に目を細めます。

 ソレイユの活動は、SDGsを進めるヒントが私たちの暮らしの身近にあることも教えてくれています。


ココがポイント!

コレクティブインパクトを大切に

 ソレイユの取り組みは、教材を心待ちにする子どもたちの存在に加え、学生自身が学部の垣根を越えて活動していることに意義があります。さまざまな知識やアイデアを組み合わせる「コレクティブインパクト(枠組みを越えた集合的・共同的な成果)」の第一歩として「誰一人取り残さない」社会づくりへと貢献する点が重要です。

 また、教育を受ける機会の多様性・平等性を広げる社会の実現を願う若者たちのメッセージが込められていますね。

 

くまにちSDGs アクションプロジェクト

アドバイザー 澤 克彦さん

EPO九州(九州地方環境パートナーシップオフィス)