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第6回 江津湖の魅力

SDGs視点で熊本を再発見!

 熊本市の江津湖は約400年前にできた湧水湖です。貴重な水生生物が育ち、阿蘇を水源とする熊本の豊かな水を実感できる市民の憩いの場として親しまれています。人口70万人超の都市圏の中に、このような環境があるのは全国的にも珍しいこと。江津湖を守る市民の取り組みは、「住み続けられるまちづくり」につながっています。

 

豊かな水の象徴 私たちの財産

 9月上旬に江津湖を訪れると、水遊びをする子どもたちの元気な声が響いていました。ピクニックや昼寝をしている人もいます。熊本市中央区在住の女性(44)は「小学2年生の娘と生き物観察に来ました。小さな魚やエビ、カニを見つけましたよ。江津湖では家族で弁当を食べたり、運動したりすることもあります」と話します。

熊本市街地にある江津湖。老若男女、幅広い人たちが思い思いの時間を過ごす、街なかのオアシスです

 

 江津湖は全長2.5㌔、周囲6㌔、湖水面積は約50㌶の湧水湖で、水道水の100%を天然地下水で賄う熊本市のシンボル的な存在。周囲は水前寺江津湖公園として整備され、市民の憩いの場になっています。

 昭和57年創立の江津湖研究会は、自然科学の研究者らがメンバーで、40年にわたり江津湖を中心とした水環境保全に取り組んできました。東海大名誉教授で同会会長の椛田(かばた)聖孝さん(71)によると、熊本の豊かな水は、阿蘇の噴火により形成されました。30数万年前から約8万年前の間に4回の大噴火があり、火山灰などによって、水が染み込みやすいスポンジのような地層が地中にでき、阿蘇は1500カ所以上の湧水が存在する、九州の水がめとなりました。「人口70万人超で生活用水のほぼ100%を地下水で賄っている都市は国内で他にありません。熊本は世界の中でも特に水に恵まれた地で、そのシンボルが江津湖」と椛田さんは話します。

江津湖は、熊本市の水の風土と文化を後世に伝えるため、市民共有の財産として市が登録する「熊本水遺産」にも選ばれています

熊本市動植物園内の「水辺のインフォメーションセンター」で撮影した江津湖にすむ魚

 

 しかし、長い歴史の中では環境が一変したこともあります。昭和28年の白川大水害では、阿蘇から流れてきた火山灰を含んだ土砂で江津湖は覆われてしまい、生態系に大きな影響を与えました。江戸時代から育成されてきたスイゼンジノリも絶滅したと考えられました(昭和41年の調査で絶滅していなかったことが判明)。その後、土砂を撤去し、復旧は進みましたが、昭和30年代の高度経済成長期になると、道路の舗装や建物の建築が急速に進んだことで地下に浸透していく雨水の量が減少。一方で水を使う量は増えていったことから湧水量が減り、かつて1日89万㌧あった江津湖の湧水量は40万㌧前後にまで減少してしまいます。

 そこで江津湖研究会では、江津湖および熊本の水環境についての調査や親子自然観察会の開催、スイゼンジノリの保全、外来植物の除去などさまざまな活動を行ってきました。他にホタルの保護団体や外来種を駆除する団体なども活動しており、江津湖の自然を守るために多くの人が力を注いでいます。

水遊びをしたり、生き物を捕まえたり。江津湖は大自然の遊び場であり学びの場になっています

熊本市動植物園の植物園ゾーンにあるスイゼンジノリの保護育成地。「スイゼンジノリは水質や日照量、流速などの影響を受けやすいので、江津湖の水質のバロメーターといえます」と椛田さん

江津湖研究会が30年以上前から開催している親子自然観察会(2013年7月)

 「まず江津湖に来てもらい、その素晴らしさや阿蘇とのつながりを理解してほしい。それがゴミを捨てない、水を大切にするといったアクションにつながります」と椛田さん。江津湖をこれからも持続可能な都市型自然環境として未来へ受け継いでいくためには、私たちの共有財産として大事に保全と活用をしていく必要があります。

 

中学生 スイゼンジナの魅力学ぶ

 熊本の伝統野菜スイゼンジナは、水前寺の江津湖や水前寺成趣園から湧き出る豊富な湧水を使って栽培されていたことから、その名が付いたといわれています。西原中(熊本市)の3年生は5月から9月にかけて、SDGsを考える総合授業の中でスイゼンジナの魅力発信や認知度アップに取り組み、さらにスイゼンジナと同じルーツの野菜「金時草」がある石川県の安宅小5年生と、「ハンダマ」がある沖縄県の伊良部島小4年生と交流しました。

オンラインで、石川と沖縄両県の小学生にスイゼンジナの魅力を楽しく紹介

 スイゼンジナを使った給食の献立を考えた西山陽葵(ひなた)さん(14)は「スイゼンジナはきれいな水があるから育てられる伝統野菜で、水の大切さを改めて感じました」と話します。考案したスイゼンジナの献立は9・10月の給食に登場するそうです。

 


ココがポイント!

自然と歴史が育んだ湖 後世に

 日本一の地下水都市・熊本、その象徴が江津湖です。国連・生命の水大賞や平成の名水百選にも選定され、熊本県民の憩いの場、都市のオアシスとして広く親しまれています。湧水と河川からの流入水を併せ持つため、他の湖水に比べはるかに美しく、またそこに生育・生息する生物の種類も豊富ですが、時代とともに徐々にむしばまれている現状があります。阿蘇の4回にわたる大噴火や加藤清正による中流域の水田開発など、自然と歴史が育んだ江津湖。この天恵を末永く守り伝えていくことが今を生きる人々の使命といえるでしょう。

 

東海大名誉教授

江津湖研究会会長 椛田 聖孝さん

九州大学大学院博士課程修了。専門は、草地学、水環境科学、生物資源科学。未利用生物資源を活用した環境修復や日本固有種・スイゼンジノリの保全活用に関する研究を行っている。