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第7回 日本初の「男女共学」 熊本洋学校

SDGs視点で熊本を再発見!

 SDGsではゴール4「質の髙い教育をみんなに」、ゴール5「ジェンダー平等を実現しよう」など教育や社会的性差に関する分野も重視しています。実は、日本で最も早い時期に「男女共学」を始めたとされるのは、1871(明治4)年に熊本に開校した熊本洋学校です。その後も熊本は女子教育の道を切り開いた偉人を輩出しています。そして現在も性別にとらわれず、誰もが自分らしく生きていくための教育が進められています。

 

ジェンダー平等の教育 推進

 県道28号沿い、市立体育館前電停の北側の公園(熊本市中央区)で、美しい洋風建築の建物の工事が進んでいます。県内に現存する最古の洋風建築として県重要文化財に指定されているジェーンズ邸です。熊本地震で全壊し、同区水前寺公園から移築されることになり、現在復旧工事中。2023年度中に一般公開される予定です。

移築復旧中のジェーンズ邸。熊本の男女共学の先駆けとなった熊本洋学校で教師を務めたジェーンズの住まいです

 ジェーンズ(1837〜1909年)は、熊本城内の古城(現在の県立第一高敷地)に開校した熊本洋学校の教師として米国から招かれました。海外のさまざまな文化や知識を生徒たちに伝え、人格教育にも力を注ぎ、日本で最も早い時期に「男女共学」を始めたとされています。当時、女子が同校で学ぶことに男子生徒は反発しましたが、「女をさげすむ男が、母を持ったり、妹を持ったり、まして妻を持ったりすることは不自然でないか」と諭したそうです。

 

四賢婦人記念館(益城町杉堂)では、矢嶋家六女・楫子のほか、熊本の女子教育の先駆者である三女・竹崎順子、徳富蘇峰・蘆花の母である四女・徳富久子、横井小楠の妻の五女・横井つせ子らの歴史や功績が紹介されています

 熊本大教授で家政学が専門の八幡彩子さん(56)によると、熊本には他にも男女共同参画の歴史を学ぶ上で多くの地域題材があります。その一つが、日本キリスト教婦人矯風会会頭として女子教育・婦人運動に努め、後に女子学院(東京都)の初代院長を務めた矢嶋楫子(1833〜1925年)の功績。出身地である益城町には、楫子をはじめ女性の地位の向上に向け奔走した矢嶋家の女性たちを紹介する四賢婦人記念館があります。

 

 

 こうした土壌がある熊本で、現在も教育関係者は、男女共同参画社会を目指してさまざまな取り組みを進めています。その一つが制服です。

 大津町では2019(平成31)年に小学校7校の標準服と中学校2校の制服で、男子はスラックス、女子はスカートの指定をやめ、本人の希望で選択できる制度に変更しました。「一部の性的マイノリティーの人たちだけの話ではなく、全ての子どもたちが自由に自分らしく生きていくことが大切だという考えから検討会を開き、変更しました」と大津町教育委員会の百田止水さん(55)。

大津中学校と大津北中学校の制服。性別ではなく本人の希望でスラックスかスカートを選べます

大津町人権推進課が9月27日に大津北中で行った男女共同参画の出前授業の様子

 また、大津町は行政が率先して男女共同参画の推進に力を入れています。役場に人権推進課を設け、今年3月には男女共同参画を解説した中学生向けのリーフレットを作成。さらに、4年前からは中学校で男女共同参画についての出前授業を行っています。授業では、偏りがちな家事の負担や社会人の男女の給与格差など、さまざまな課題について問題を提起し、生徒たちがグループ内で課題解決について意見交換をします。また、授業では男女共同参画の審議会委員が話をすることもあります。9月27日、大津北中で行われた出前授業では、委員の1人が、車のエンジニアと外科医として働く2人の娘の仕事について話しました。男性のイメージが強かった仕事でも今では女性が活躍していることを実体験を交えて伝えました。

 他にも、県や熊本市、天草市は男女共同参画センターを設け、啓発や情報提供、県民・市民の活動を応援するなど、県内各地でジェンダー平等の実現に向けた動きが進んでいます。

 偉人たちが育んできた歴史があり、新しい取り組みも進む熊本。それらを見つめていくことで、さまざまな気付きを得られそうです。


ココがポイント!

熊本の教育の歴史を学ぶことは有意義

 男女格差を国別に測る「ジェンダー・ギャップ指数」(2022年世界経済フォーラム)の日本の総合順位は146か国中116位。これは、「教育」では世界第1位であるにもかかわらず、「政治参画」や「経済参画」の順位が低いことによるものです。その「教育」分野においても、学習者一人一人の個性や能力に応じた最適の学びの実現、高等教育における分野別男女比等において、今なお課題を抱えています。また、最近では、LGBTなどの多様な性の概念が、学校におけるジェンダー平等のための環境を整備する原動力となってきました。全ての人にとって学びやすく居心地のよい学校・教育の機会をつくるために、女子教育の道を開いた熊本の教育の歴史を学ぶことは有意義であると考えます。

 

熊本大学大学院 教育学研究科長

八幡(谷口)彩子さん

熊本市出身。お茶の水女子大学大学院家政学研究科修了。博士(学術)。専門は家政学原論(家政学史)・家庭経営学。熊本大学男女共同参画コーディネーター、熊本大学教育学部附属特別支援学校長を経て、2021年度から熊本大学大学院教育学研究科長。熊本県・市で各種行政審議会委員を務める。