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第11回 献血  熊本県赤十字血液センター

 日本赤十字社は、国内外で医療や福祉、災害支援などの活動をしています。前身の救護団体「博愛社」は1877年、西南の役の中にあった熊本で誕生したことから、熊本は「日本赤十字社発祥の地」といわれています。県内にある赤十字関連の組織・施設は4つ。このうち、県赤十字血液センターは、治療や手術などで輸血を必要としている患者を救うために健康な人から血液を提供してもらう「献血」の業務を担っています。献血はSDGsのゴール3「すべての人に健康と福祉を」につながる社会貢献活動の一つですが、献血者の減少が大きな課題となっています。

 

 

「献血」を通して守る 地域の健康

 

 2月2日、熊本県赤十字血液センター(熊本市長嶺南)を訪ねると、1階にある「日赤プラザ献血ルーム」では献血を希望する人たちが採血の順番を待っていました。この施設以外にも、「下通り献血ルームCОCОSA(ココサ)」(熊本市下通)と、移動式の「献血バス」で献血を受け付けています。

 日本赤十字社は全国に47の地域血液センターを有しています。輸血を必要とする患者を救うために血液を提供してもらう献血と、輸血用血液製剤を医療機関へ供給する役割を各地で担っており、熊本県赤十字血液センターもその一つ。同センターは1965年に開所後、1979年に献血率で日本一になり、献血の先進地として全国的に注目されました。同センター献血推進課長の岩根一己さん(49)は「助け合いの精神を持つ県民性に加え、当センターの先輩が長年、県内各地を回り、県民の関心を高めてきたことが高い献血率につながったのではないか」と話します。

 

「下通り献血ルームCOCOSA」での献血の様子。問診後に採血、血圧測定をします

 

若者の献血離れが課題

 

 しかし、献血者数は1984年度の19万7177人をピークに減少に転じます。近年で最も少なかったのは、熊本地震が発生した2016年度の6万2091人。地震後の3カ月ほど献血者を受け入れられず、大きく落ち込みました。翌年から回復し始めましたが、コロナ禍で再び減少し、昨年度の献血者数は7万2749人でした。

 同センターによると、年代別では16〜19歳、20代、30代の減少が顕著です。少子高齢化に加え、献血への理解不足や、「痛そう」「怖い」といった先入観を持つ人が多いことも影響しているといいます。「学校へ献血車で出向いて学生に献血していただく機会も、コロナ禍でずいぶん減ってしまいました」と岩根さん。

 

鹿本商工高校で開催した献血セミナー

 

 若者にもっと献血への関心を持ってもらうために、同センターは普及活動にも取り組んでいます。その一つが、高校などに講師を派遣し、献血の仕組みや必要性を伝える「献血セミナー」です。令和4年度は20校以上で開催し、延べ4390人の若者が参加しました。また、県内9大学の大学生ボランティアからなる「熊本県学生献血推進協議会」と連携し、献血推進のための活動やイベントも展開しています。

 

 

被災地の支援にも

 

 献血された血液は、県内で病気の治療や手術などで輸血を必要とする人のために使われるのはもちろんですが、九州の他県、大規模災害の被災地でも活用されています。

 日本赤十字社は全国を七つのブロックに分けて血液事業を管理・運営しています。九州ブロックの場合、各県の地域血液センターで献血された血液は九州ブロック血液センター(福岡県久留米市)へ運ばれます。その後、安全性を確保するための検査を経て輸血用血液製剤として製品化され、各県の医療機関からの要請に応じて地域血液センターへ分配されるという流れです。献血は身近な地域だけでなく、九州全体の輸血用血液製剤の供給を支えています。

 また、大規模災害の被災地で血液が不足したら、日本赤十字社は全国のネットワークを生かして輸血用血液製剤を集め、送り届けています。実際に、熊本地震の時は「他ブロックからの支援のおかげで乗り切ることができた」と岩根さんは振り返ります。

 また、血液センターの職員は被災地で大きな力となっています。2011年の東日本大震災では、宮城県赤十字血液センターで業務をサポート。今年1月1日に発生した能登半島地震では、救護チームの一員として石川県で支援活動に当たり、石川県に輸血用血液製剤を分配する東海北陸ブロック血液センターと連絡を取りながら血液事業の状況も注視しているそうです。

 県赤十字血液センターは地域の医療を支えるだけでなく、被災地での医療支援にも取り組んでおり、持続可能な社会づくりに貢献しています。


ココがポイント!

お互いさまの心で健康に暮らせる社会を

 SDGsのゴール3「すべての人に健康と福祉を」では、誰もが健康増進・予防・治療を適切な費用で受けられる「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」の考え方が示されています。現在、私たちが享受している身近な保健医療サービスそのものであり、献血によって作られる血液製剤も重要な役割を担っています。

 しかし、血液製剤には輸血に使用できる期間が定められており、日頃からの地道な啓発と、献血に協力する一人一人の善意が欠かせません。

 こうした支え合いの持続性、お互いさまの関係が安心で健康的に暮らせる地域社会の土台をつくっています。

 

くまにちSDGs アクションプロジェクト

アドバイザー 澤 克彦さん

EPO九州

(九州地方環境パートナーシップオフィス)