SDGs朝刊特集 掲載記事アーカイブ

第3回 地域公共交通

SDGs視点で熊本を再発見!

 鉄道、バス、航空機、船舶など誰でも利用できる公共交通機関。環境負荷を軽減できるだけでなく、自動車を持たない高齢者や学生、障がい者など交通弱者の生活を支えている点もSDGsに貢献しており、重要な地域資源です。熊本市電と熊本電気鉄道もその価値が見直されています。

 

平等な生活支える地域の足

 ガタンゴトンと音を立てて走る熊本市電の車両。電停でドアが開くと、学生や社会人、高齢者、車いす利用者ら、さまざまな人が乗り降りします。「免許返納以降、買い物や通院は電車やバスが中心です。公共交通機関は私の足です」と77歳男性=熊本市北区。

 

2014年に運行開始した熊本市電の新型超低床電車「COCORO」。意匠を凝らしたデザインも話題に

 自動車の普及による利用客の減少で、公共交通機関の路線や運行数は最盛期に比べ減少しています。大正13年に開業した熊本市電は、戦後は昭和40年まで7系統25㌔㍍の路線がありましたが、次々と廃止され現在は2系統(健軍 ― 上熊本、健軍 ― 田崎橋)に。明治42年創業の熊本電気鉄道(当初の社名は菊池軌道)は、かつて菊池市まで路線がありましたが、昭和61年に現在の藤崎宮前駅 ― 御代志駅間となりました。

 そのような状況でも、両交通機関は地域の人たちの暮らしを守り、利便性を高めようとさまざまな工夫をしてきました。熊本市電は平成9年に車いす利用者の乗降に配慮した超低床電車の運行をスタート。当時、日本初の試みでした。「市電は一時、廃止も検討されましたが、存続へと方針を転換。どなたでも快適にご利用いただける市電を目指して歩んできました」と熊本市交通局運行管理課副課長の荒木敏雄さん(49)。近年もスマートフォンを活用したモバイル定期券の導入や電停のバリアフリー化などを進めており、令和6年には輸送力向上のため新しい超低床多両編成車両を導入予定です。

左から、熊本市交通局運行管理課の窪田雄一さん、荒木敏雄さん、上熊本車両工場長の山本俊一郎さん

西鉄より1978年に譲り受けた熊本市電車両。現役で活躍中

 

 熊本電気鉄道は、全国の鉄道会社から引退した車両を譲り受けて再利用することで車両確保の費用を抑え、地域の人たちの足として存続してきました。青ガエルの愛称で親しまれた5000形電車は東急電鉄から譲り受けて運行。平成28年に引退しましたが、全国から多くの鉄道ファンが訪れ、地域のにぎわいにも貢献しました。熊本電鉄鉄道事業部の井川敬浩さん(33)は「鉄道車両の文化的価値を実感し、これからも車両を大切に使っていきたいと改めて思いました」。SDGsの目標「つくる責任 つかう責任」にもつながっています。

熊本電鉄の車両。右が青ガエルの愛称で親しまれてきた5000形電車。現在は体験走行会などのイベント時に乗車することができます。左は静岡鉄道から譲渡された1000形で、3月から運行中

 また、車両には折りたたみ式のスロープを常備し、乗務員が車いす利用者の乗降をサポート。昭和61年には自転車の車両への持ち込みを可能にしました。

熊本電鉄では車両への自転車の持ち込みが可能。平日と土曜日は朝9時から昼3時30分まで、日曜・祝日は常時可。ただし、雨の日や雪の日、団体客が利用時は不可

熊本電鉄鉄道事業部の井川敬浩さん

 

 全ての人が平等に生活を送るために必要不可欠な公共交通機関は、維持・発展のために工夫を重ねています。その価値を理解し、利用を促進することが、私たちがすぐにできるSDGsにつながるアクションの一つです。

 

球磨村を走る電動スクールバス

 熊本大学が提案した「球磨村電動スクールバス実証事業」が昨年度、中山間地域での電動マイクロバス導入を検証する環境省の委託事業に採択されました。球磨村で電気自動車(EV)のスクールバスを走らせることで二酸化炭素排出量を削減。太陽光発電による再生可能エネルギーの活用、車載バッテリーに蓄えた電力の公共施設での活用なども行い、来年度までデータを集めて検証されます。スクールバス試験運行は3月の平日の朝夕2回、往復24㌔㍍の路線で実施。7月には屋根に太陽光パネルを搭載した新たな電動スクールバスを導入し、再び実証実験をする予定です。

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 同村は令和2年7月豪雨からの復興計画に“脱炭素のむらづくり”を掲げ、CO2排出量の実質ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ宣言」も行っています。

 

 


ココがポイント!

存在自体がSDGsに大きく貢献

 熊本都市圏での移動で自動車の利用比率が65%もあるのに対して、鉄道とバス・市電を合わせた公共交通機関の利用比率はわずか6%(熊本県 平成24年 熊本都市圏パーソントリップ調査より)です。

 特にバスは、この10年間に利用者が3割も減少しており、経営悪化による路線の廃止や減便が続いています。しかし、自動車を利用できない高齢者や障がい者の暮らしと移動を支え(SDGsゴール3)、生活と地域活性化の基盤であり(同11)、一人あたりのCO2排出量が自動車の半分である(同13)地域公共交通は、その存在そのものがSDGsに大きく貢献します。

 

 

熊本学園大学経済学部

教授  溝上 章志さん

 

専門は都市・交通政策。公共交通の活性化・再生のための技術と政策に長年取り組む。現在は新しいモビリティサービスによる社会や都市、生活の未来について実践的研究を行っている。