SDGs朝刊特集 掲載記事アーカイブ

第4回  イ草と畳のある暮らし

SDGs視点で熊本を再発見!

 「イ草をSDGsの視点から見つめ直すと、どんなことが分かりますか?」。田中麻紀さん(48歳=苓北町)からの投稿です。イ草は日本の住文化に欠かせない畳表の材料になります。八代地方で約500年前に栽培が始まり、地域の豊かさを支えてきました。生産される畳表の原料は100%自然由来のものです。経済、自然、文化など多角的な視点でSDGsにつなげることができる貴重な存在といえます。

 

全国一の産地 「緑の宝」守り抜く

 7月7日、30度を超える猛暑の中、八代市鏡町北新地のイ草田で、農家の方々が収穫に汗を流していました。11月下旬〜12月下旬に苗を植え付け、6月下旬〜7月中旬にかけて刈り取ります。色や香り、光沢を出すため、その後すぐに天然の染土を使って泥染めして乾燥させます。その後、畳表に織り上げます。そこまでをイ草農家が担っていることはあまり知られていません。織り上げた畳表は市場や問屋へ出荷し、畳店が買い付けて畳へと仕上げ、私たち消費者に届きます。

八代市鏡町北新地の村上友教さんのイ草田。村上さんはイ草農家の4代目で、曽祖父の代に干拓地であるこの地に入植してきたそう。「子どもたちがイ草農家になってくれるようなカッコいい職業にしていきたい」と話します

 熊本県はイ草の国内最大産地で、総生産量の99%を占めます。熊本県いぐさ・畳表活性化連絡協議会によると、その95%が八代地域産。約500年前に栽培が始まったといわれています。水が豊富で気候は暖かく、干拓地で平地が多く作業がしやすかったため栽培が盛んになったそう。しかし、同協議会によると熊本県では平成元年には5460戸あったイ草農家は令和4年には319戸まで減少。住宅の洋式化で畳の需要が減ったことや後継者不足、農家の高齢化、工業畳表や中国産畳表の台頭などが主な理由だそうです。

 そこで同協議会では、イ草農家やイ草関連の産業の存続のために、畳が持つ香りの良さや湿度調節、保温・断熱性、抗菌効果といった魅力を広く伝え、伝統や歴史を守ろうとしています。平成29〜31年に123台のイ草収穫機を導入。令和2、3年には、20年以上製造が止まっていた移植機をメーカーで再製造することにこぎ着け、減り続けていた作付面積を令和3年にプラスにすることに成功。支援があれば成長させられる分野であることを証明しました。また、八代市役所に子どもが遊べる畳スペースや畳のベンチを配置するなど、畳に触れる機会の創出に努めています。

刈り取ったばかりのイ草。長くて太さが均一で、変色や傷が少ないものが品質の良いイ草とされています

刈り取ったイ草は重機で自宅横の作業場へ運びます

作業場にある泥染めの設備。畳表はイ草や天然染料、麻、綿だけで作られる100%自然由来の産品

 

 一方、イ草農家も産業の継続・拡大に向け、さまざまな工夫をしています。北新地の村上友教さん(35)はイ草農家の4代目。近隣農家と連携して作付面積の拡大や作業の効率化に取り組んだり、前例に縛られない栽培方法に挑戦して高品質のイ草を育てたり、TikTok(ティックトック)でイ草や畳の魅力を発信したりするなど、業界に新しい風を吹かせています。「赤ちゃんは0〜1歳までの寝返りや、ハイハイなどの動作すべてが体幹を鍛えることにつながります。その際、フローリングだと硬くて心配ですが、クッション性のある畳なら安心。ぜひ畳を取り入れてほしい」と、同じ子育て世代に向けメッセージを送ります。

村上さんがTikTokの動画を撮る際の衣装。自身がファンだという人気YouTuberをリスペクトし、「イグサック」の名前で活動中

村上さんが試作中の畳表を使ったヨガマット。既成概念にとらわれず、新しいことにも積極的に挑戦

 

 多くの魅力を持つイ草と畳。その価値を改めて見直すことは、日本が誇る素晴らしい文化を持続させるとともに、八代地域の美しい景観や私たちの豊かな暮らしを守ることにつながります。

 

時代に合わせた活用法も提案

 八代産畳表認知向上・需要拡大推進協議会は、八代産畳表の紹介や、畳のある生活スタイルの提案などPR活動に取り組んでいます。一昨年に家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の人気ソフト「あつまれ どうぶつの森」で畳をPRするプロジェクトを開始。日本の伝統文化である畳の良さを感じてもらうために、ゲーム内に畳を設置した「やつしろたたみ島」=写真=を製作し、国内外に八代産畳表の魅力を発信。「八代が畳の産地だと初めて知った」、「実際に遊びに行ってみたい」などの声がゲーム利用者から寄せられ、反響の大きさに驚いたそうです。また、昨年は八代市の企業がイ草を配合したプロテインを販売するなど、八代地域では時代のニーズに合わせた商品開発も進んでいます。


ココがポイント!

産業の持続性が課題解決の原動力に

 

 イ草産地として知られる八代地域で何世代にもわたって農業が営まれていることを、ついつい当たり前のように考えてしまいますが、豊かな土地があり、利活用できる知恵と技術を積み重ねてきたことの証しとして、学ぶことが多くあります。

 SDGsは根源的な課題(ゴール1から6)とともに、社会経済のあり方についても幅広く問題意識を示しており、地域経済の持続性がさまざまな課題解決の原動力となることを示唆しています(ゴール7から12)。

 

EPO九州

九州地方環境パートナーシップオフィス

コーディネーター

澤 克彦さん

1975年生まれ、熊本市出身

熊本県立大大学院修了

環境教育NPOなどを経て現職