SDGs朝刊特集 掲載記事アーカイブ

第9回 脱炭素社会への取り組み

SDGs視点で熊本を再発見!

 SDGsのゴール13は「気候変動に具体的な対策を」。近年、世界各地で発生している異常気象は地球温暖化が要因で、大気中に温室効果ガスである二酸化炭素が増え過ぎたことが原因といわれています。そこで熊本市と近隣市町村は、全国で初めて「温室効果ガス排出実質ゼロ」を目指すための連携を構築。大きなスケール感で脱炭素社会の実現に取り組み、私たち一人一人ができることについても発信しています。

 

市町村の枠を超え地域脱炭素へ

 11月18日、県内19市町村の環境行政を担当する職員がオンライン会議で集い、温暖化対策に関するさまざまな推進事業について協議しました。

 これは熊本市が近隣市町村と政策面での連携を目的に2016年に発足させた「熊本連携中枢都市圏」の温暖化対策プロジェクトの会議です。同プロジェクトでは20年に18市町村(阿蘇市、宇城市、宇土市、大津町、嘉島町、菊池市、菊陽町、玉東町、熊本市、甲佐町、合志市、高森町、西原村、美里町、南阿蘇村、御船町、益城町、山都町)が共同で「2050年温室効果ガス排出実質ゼロ」、いわゆる「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言、翌年に地球温暖化対策を推進するための計画を策定しました。22年に山鹿市が加わり、現在19市町村(圏域人口約121万人)が連携。年4回の担当者会議と、年1回の外部委員を含む協議会を開いています。

 「地球温暖化対策は一つの地域や個人の問題ではありません。例えば熊本市外に住んでいて、熊本市内の会社に勤めるなど、生活圏が複数の自治体にまたがっているという人も多くいます。近隣市町村と連携し、都市圏全体として住民・事業者と一丸となり対策に取り組むことが効果的だと考えます」と事務局を担う熊本市温暖化・エネルギー対策室の藤田健さん(42)。

 各自治体の温暖化対策のノウハウを共有することで、取り組みを都市圏全体に広げる効果や、共同で実施することによる推進効果も見込んでいます。

合志農業活力プロジェクトにおいて、市内の農地の一角に造られた太陽光発電所(写真提供=自然電力株式会社)

 各自治体の実践事例として注目されているものの一つが、合志市が14年から取り組む、太陽光発電を利用した「合志農業活力プロジェクト」です。民間企業2社と共同で設置した大規模太陽光発電所の売電収益を、地域の農業や土地改良・施設の維持管理費に還元。さらに、プロジェクトの出資者への配当を積み立てた基金を設立し、農作物の6次産業化やビジネススクール運営の財源にするなど、未来を見据えた事業も展開。温室効果ガスを排出しない自然エネルギーを、地域の基幹産業の維持・振興につなげています。

合志農業活力プロジェクトの基金を使って開発した、家庭で育てるポット販売のいちご。同市物産館などで販売中

 

 また、大津町は昨年、環境に配慮した役場の新庁舎を完成させました。太陽光や風などの自然エネルギーを活用して快適な屋内環境をつくる「パッシブデザイン」を取り入れ、照明設備や空調設備を省エネモデルに一新。屋上の太陽光発電設備で発電した電力を庁舎で使用するなどして温室効果ガス削減に貢献しています。19年、建物で消費するエネルギーをゼロにすることを目指したゼロ・エネルギービルのうち「 ZEB Ready 」の認証を取得しました。

 

大津町役場の新庁舎の外観。各階に2メートルのひさしを設置し、夏季の日射を効率的に遮るなど工夫されたデザイン

大津町役場新庁舎1階ロビー。住民向けの窓口が集まりキッズスペースもある

 

 「各自治体で連携し、学び合いながら、協力してスケールの大きな取り組みを進めたいと考えています。都市圏の事業者と住民の方々に協力いただきながら、脱炭素社会の実現に向けて進んでいきたい」と藤田さんは今後の展望を話します。

本年度に開かれた「熊本連携中枢都市圏」温暖化対策プロジェクトの市町村連絡会議の様子

 

 

みんなができる「COOL CHOICE(賢い選択)」

 「COOL CHOICE(クールチョイス)」は2015年に国が始めた、地球温暖化対策を目的とした国民運動です。日々の生活の中で、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量削減に貢献する製品やサービス、行動を選ぶなど、「賢い選択」を促すものです。「熊本連携中枢都市圏」でも共同で推進しており、圏内住民への啓発に努めています。

パンフレットを手に「みんなで協力して温暖化対策に取り組みましょう」と呼び掛ける中武さん

 熊本市は、COOL CHOICEの考え方や温暖化の仕組み、熊本市の取り組みなどを紹介するパンフレット「くまもとクールチョイス隊」を作成し、ごみ焼却施設を見学に来た小学生に配ったり、温暖化対策に関する出前授業などで活用したりしています。「省エネ家電やエコカーへの買い替え、断熱性能が高い家の建築、公共交通機関の利用など、温暖化対策のための行動はいろいろあります。大人から子どもまで、たくさんの人に読んでいただき、考えるきっかけにしてほしい」と熊本市温暖化・エネルギー対策室の中武史織さん(33)。パンフレットや出前授業の問い合わせは、熊本市温暖化・エネルギー対策室☎096(328)2355へ。


ココがポイント!

地域資源を最大限活用した課題解決へ

 国の地球温暖化対策として2021年3月、改正地球温暖化対策推進法が閣議決定され、21年10月には第6次エネルギー基本計画及び地球温暖化対策計画が閣議決定されました。熊本では、熊本連携中枢都市圏地球温暖化対策実行計画協議会が22年1月に開催され、短期目標(2025年度)、中期目標(2030年度)、長期目標(2050年度)を策定、50年度内に温室効果ガス排出実質ゼロを目指す取り組みが開始しました。単に再生可能エネルギーを導入すれば目標が達成できるものではありません。地域資源を最大限活用した再エネ設備の導入、省エネルギー化やエネルギーの効率化を促進しながら地域の課題解決と脱炭素を実現することで、今後の地域づくり、災害に強い資源循環社会への構築に進展することが求められています。   

 

熊本大大学院先端科学研究部

教授 鳥居修一先生

福岡県出身。九州大大学院総合理工学研究科修了。工学博士。専門は熱・流体エネルギー分野。熊本県・市で各行政審議会・委員会の委員長や委員を務める。特に、九州地域の各自治体において新エネルギー回収型廃棄物処理施設の機種選定委員会・事業者選定委員会の委員長や委員を務める。