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「一人も取り残さない」福祉めざす 障がい者就労支援 NPO法人福ねこ舎(熊本市) 

 

 白衣に身を包んだ障がい者たちがニラやシソの入ったあんを皮で包み、次々にギョーザを作り上げていきます。熊本市出水1丁目の通称「出水ふれあい通り」でNPO法人「福ねこ舎」が運営する障がい者就労支援事業所は、障がいのある人たちが地域の中で暮らし、働く力をつけるための拠点として長年活動を続けています。地元の人々との共存、共生を目的とした福ねこ舎の活動は、SDGsのゴール3「すべての人に健康と福祉を」や、ゴール8「働きがいも経済成長も」につながっています。 

 

 

 就労支援事業所の名称は「大夢(たいむ)」。「文字通り、大きな夢を持っていきましょうということと、疲れたらタイムをとって休みましょうということをかけています」。福ねこ舎の理事長で大夢の施設長でもある津留清美さん(71)=同市清水岩倉=は、そう言って笑顔を見せます。 

 事業所には、身体や精神、知的などの障がいがある21歳から77歳までの26人が登録。14人が3階でギョーザを作り、1階にあるカフェレストラン「みなみのかぜ」では12人が働いています。ギョーザはレストランで提供するほか、支援学校や支援学級を中心に市内の中学校などにも販売。ギョーザに使うシソは栽培農家の協力で提供してもらっています。 

 

ニラやシソ、ニンニクなどが入ったギョーザを作る障がい者たち。普段は1パック8個入りを40パック程度だが、多いときは200パック作ることも

 

地元に立脚した活動 

 

 ギョーザ作りに精を出していた利用者の男性(42)は「販売先でギョーザが売れると、とてもうれしい。やりがいのある仕事で、みんなが仲良くやれている」と話します。レストランで働く別の男性(36)は「働きやすい環境で職員さんも優しい。電車で通勤できるのもありがたいです」とうれしそうです。 

 福祉の現場に入って15年目で、地域の商店などでつくる出水商栄会の副会長も務める津留さんは、「やはり、地元に立脚していることが一番大事」と力を込めます。8年前の熊本地震で停電と断水が続いたときは、近くの井戸水を使ってカセットコンロでご飯を炊き、温かいおにぎりを作って避難所となっていた小学校に届けました。地震をきっかけに事業所の存在が広まり、認められたといい、地区の集まりなども1階のレストランで開かれるようになりました。 

 

1階にあるカフェレストラン「みなみのかぜ」の店内。地域の交流の場にもなっている

 

障がい者の適性探る 

 

 レストランでは4年前の3月まで月に1回、古楽器やギターアンサンブル、ハワイアンなどのコンサートを開催。新型コロナウイルス感染症のため開けなくなりましたが、120回続いたコンサートは地域の人々と障がい者を結ぶ貴重な機会となりました。その後もレストランは、コーラスサークルの練習場や絵画や写真を展示する場として地域に開かれた存在となっています。 

 「事業所は訓練の場と同時に障がい者の適性を探る場でもある」と津留さん。事業所で働いた後、一般の職場に移った人もいます。ただ、「障がいのある人の自立と社会参加を目標としていますが、社会の動きに影響されやすいのが現実。福祉の現場もどんどん効率や成果を求められるようになってきました」。 

 明治時代の作家・徳冨蘆花を顕彰する「熊本・蘆花の会」の事務局も務める津留さんは、「教育家だった蘆花の伯母・竹崎順子は『一人も取り残さない』を信条としていました。福祉の現場もまったく同じ。生きづらさを抱えている人たちと交流を深めながら、少しずつ活動を広げていけたらいい」と話しています。 

 

 


ココがポイント!

SDGsの原点に通じる取り組み 

くまにちSDGs アクションプロジェクト

アドバイザー 澤 克彦さん

EPO九州

(九州地方環境パートナーシップオフィス)

  

 

 

 

 

 SDGsと言われて多くの方が思い浮かぶのは、1〜17のゴールかもしれません。しかし、大切なのはその先にある「誰一人取り残さない (leave no one behind)」というSDGsのキーメッセージ(基本理念)です。 

 カフェレストラン「みなみのかぜ」では、地域の多様な人々が働きがい、生きがい、関わり合いを通して集う、小さくとも地域に大きく開かれた多彩な場として、誰一人取り残さない暮らしが実践されています。 

 ランチに立ち寄ってみることも、そうした関わりを支える一歩となります。