SDGs朝刊特集 掲載記事アーカイブ

第1回 熊本 SDGs視点で再発見

 SDGs(持続可能な開発目標)とは地球と人々の暮らしをより良くするための目標です。しかし、スケールが大きく、一人一人が取り組めることは何か、何から始めたらいいのか分かりにくいという声も聞かれます。そこで今回は連載のプロローグとして、SDGsに関わる情報発信をしているEPO九州の澤克彦さん(46)と一緒に、熊本の歴史・自然・暮らしという身近なテーマをSDGs視点で見つめ直しながら、親しむためのポイントを考えていきます。

 

 現代の課題につなげる

熊本城

 

 「歴史」と聞くと、その時代に起こったことだけをイメージしがちですが、大切なのは今の課題につなげ、複合的に考えてみることです。例えば、熊本城は防災、万田坑は持続可能なエネルギーにつなげることができます。

 熊本城は籠城戦を見越して城内に井戸を整備したり、イチョウの木を植えて食料の銀杏を確保したりしていました。これからの防災のヒントになりそうですね。世界遺産に登録された万田坑は石炭から石油・天然ガスへと近代社会のエネルギーが転換する中で、その出発点と歴史を象徴する施設。再生可能エネルギーや脱炭素社会を目指す現代にもつながっています。

 

万田坑

 

 草原や水資源大切に

阿蘇の草原

 

 野焼きで阿蘇の草原を守り続けてきたように、熊本の人々は自然の恩恵を受けつつ、持続的に活用するための取り組みも大切にしてきました。一方的に自然を搾取する関わり方は間違っているという感覚を長年培ってきたのです。

 

天草のイルカ

 

 今月23・24日には熊本市で「第4回アジア・太平洋水サミット」が開催されます。水の保全だけでなく、過去の災害の歴史も含め、自然と折り合いをつけながら今の暮らしに水資源を生かしてきたことが国際的に評価された結果と言えるでしょう。この機会に、ぜひ熊本の豊かな自然について改めて振り返ってみてください。「地元の自然を大切にしたい」という気持ちはSDGsの出発点でもあります。

 

白川水源

 

 モノと文化守り継ぐ

熊本市の中心部を走る市電

 

 熊本市電は最新の超低床電車から板張りの電車まで、さまざまな車両を走らせています。メンテナンスしながら長く車両を使うことはモノや文化を守り継ぐことにつながり、SDGsの一環となります。また、熊本電鉄は全国の鉄道会社から第一線を引退した車両を譲り受けて使用しており、鉄道ファンの注目も集めています。

 

辛子れんこん

 郷土の味も、成り立ちを見ていくと面白いことが分かります。いきなり団子は身近な食材を生かし、誰でも作ることができるおやつとして広がった一方、辛子れんこんは肥後藩主への献上品として誕生し、後に熊本を代表する名物となりました。郷土の歴史や文化が地域の活性化やイノベーションにつながった好例です。暮らしの中にある物事の成り立ちや背景には、私たちの文化やライフスタイルを持続的にするヒントがあります。

 

いきなり団子

 

 


ココがポイント!

EPO九州

九州地方環境パートナーシップオフィス

コーディネーター

澤 克彦さん

1975年生まれ、熊本市出身

熊本県立大大学院修了

環境教育NPOなどを経て現職

 

 

熊本は持続性の宝庫

 SDGsで大切なのは「特別なことをしなければいけない」と思わないことです。思った途端に一部の特殊な人たちだけのものというイメージになってしまいます。気軽な気持ちで「地元にとってより良いことを選んでいこう」というくらいのスタンスが良いと思います。

 それから、「物事を立体的に見る」ことも重要です。そのためには、さまざまなモノ・コトをつなげていくことがポイントになります。熊本は豊かな自然、人が長く住んできた歴史、蓄えられた知恵がたくさんあり、持続性の宝庫です。各テーマで紹介したように、背景や成り立ち、今につながる課題などと、ひも付けて考えてみるとよいでしょう。立体的に考えることで、先人の課題克服や知恵を出し合った時のことも見えてきます。今、私たちは先人が実践してきたサスティナビリティ(持続可能性)の上に暮らしています。それらを見つめ直すことも、次の時代へと持続性をつないでいく大きなヒントになるのです。