有機農業の町 山都町 地域ぐるみで食育活動
山都町は2021年5月、内閣府より「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」に選定されました。「有機農業で持続可能なまちづくり」を目指し、官民一体となってさまざまな取り組みを広げています。
1月に実施された山都町立潤徳小(大酉克彦校長)の児童を対象にした食育授業を取材しました。
1月17日、潤徳小のSDGs学習の一環としてみそ作りのワークショップが開催されました。山都町の地域おこし会社「山都でしか」が運営を担当し、全校生徒32人のうち1・2・4年生の計16人が参加しました。同校では田植えや稲刈りといった食育活動に積極的に取り組んできたものの、コロナ禍でその機会が激減。今回は久しぶりの体験型の授業とあって、子どもたちも楽しみにしていたそうです。
講師は、同町を拠点に食育活動に取り組む下田円美さん(31)です。まず、材料やみそ作りの手順について説明を受け、各自で作業を開始。保護者を中心とする地元住民のサポートを受けながら、あらかじめ蒸しておいた大豆にこうじと塩を混ぜ、手でつぶして保存容器に詰めていきます。子どもたちは初めて触る蒸し大豆やこうじの感触に興奮気味の様子。「つぶしたらヌルヌルしてきたけど豆の油が出てきたのかな」「この甘い匂いはどれから出てきているの」と質問する姿が見られました。中には、ボウルからテーブルにこぼれた材料を「もったいないから拾って使おう」と声を掛け合う子どもも。仕込んだみそは各家庭に持ち帰り、10月まで発酵させて完成を待ちます。
山都でしか代表取締役・八田祥吾さん(44)は「昔から受け継がれてきた食や農文化は地域の宝だと、子どもたちにも知ってほしい。子どもたちに町のかっこいい大人の姿を見せて、地元を好きになってもらうきっかけにもなれば」と話します。下田さんは「大豆と、こうじの原料の米は地元産です。みそ作りを通して、地域の食の豊かさを伝えられたかな」とにっこり。また、大酉克彦校長は「子どもたちにとって、ふるさとの宝に興味を持ついい機会となりました。なじみのある調味料を手作りすることで、今後の給食の食べ方も変わるのではないか」と考えています。
山都町は総面積の72%を山林が占める自然豊かな中山間農村地域です。全国に先駆けて昭和40年代から有機農法による農作物の生産が始められ、有機JAS認定登録事業者数は日本一の多さ。有機農業は農薬や化学肥料を使わずに農作物を生産するのが基本で、雑草や害虫対策など生産者の作業負担が大きいものの、環境への負荷を軽減できる農法とされています。これらの背景から、有機農業を核とした持続可能な町づくりの実現を目指しています。
同町教育委員会の枝尾竜成さん(31)によると、町では今年1月から小・中学生を対象にSDGs学習を実施。各校で有機農業とSDGsの関係をテーマにした講話や、食育に関する体験学習を実施。潤徳小での授業もこの取り組みの一環です。「地元産の有機野菜を収穫時期で分類して給食メニューを生徒自身が考案するなど、楽しみながら学べる内容を心掛けています」と枝尾さん。1月24日~28日には、全国学校給食週間に合わせて、米・野菜の約7割に町内産の有機食材を使用した給食を各校で提供しました。「山都町での暮らしの中で体験したことがSDGsとつながっていたと気付いてもらえれば」。山都町の持続可能な町づくりは、子どもから大人まで地域ぐるみで盛り上がりを見せています。
学校教育では、SDGsに関する学習活動等を通じて、子どもたちに持続可能な社会のつくり手となるために必要な資質・能力が育成されることを目指しています。山都町の食育に関する体験活動は、子どもたちが日々の食生活を通して、社会の課題を自分事として捉える学びにつながっていると思います。また、気候変動や生物多様性等に配慮した有機農業の取り組みを知ることで、地域への誇りを感じ、自分たちも課題解決に向けて共に行動することの大切さを実感する機会になっているのではないでしょうか。
※宮瀬教授の専門分野は家庭科教育で、SDGsに関連して、持続可能なライフスタイルについて研究している。NPO法人くまもと未来ネットの理事として、持続可能な地域社会づくりにも参加