SDGs朝刊特集 掲載記事アーカイブ

無料学習塾 NEW STEP実行委員会(菊池市)

高校生が講師 未来の人材育成

 「今月に入って身の回りに起きたことを30秒で話してみて」「この物語の登場人物は何人かな」―。菊池市中央公民館の一室に集まった小学生たちに講師が優しく語り掛けます。現役の高校生が講師を務める無料の学習塾「NEWSTEP」が産声を上げて1年が過ぎました。教育格差をなくそうと始まった取り組みは、SDGsのゴール4「質の高い教育をみんなに」につながっており、「くまもとSDGsアワード2023」で優秀賞を受賞しました。 

 

 

 高校生の三川翔夢(つばさ)さん(17)=菊池市=がNEW STEP実行委員会を立ち上げたのは昨年2月。「小さい頃、起立性調節障害で病院に通っていたこともあって、将来は小児科の医師になりたいと思っています。それで、子どもと関わることがすごく大事だと考えるようになって。『塾を開く』というのも自分がやりたいことの一つでした」 

 さらに、インターネットのニュースサイトで貧困問題の記事を目にして、「何か自分にできることは」と心が動いたといいます。塾が少ない菊池市に自分たちの手で塾を開くことで、「教育格差をなくし、未来の人材を育てる。学校でも家庭でもない子どもたちの第3の居場所をつくりたい」。そんな思いが三川さんを駆り立てました。 

 

子どもたちとの距離近く 

 仲間2人と実行委員会を立ち上げた三川さんは、企画書をまとめて中央公民館を訪ね、塾の会場として使わせてもらうことに。同時に、ボランティアのサイトなどを使って高校生に限定して講師の募集も始めました。 

 「子どもの頃を振り返ると、何か分からないことがあっても先生は忙しいよねと、つい遠慮してしまうことがありました。そんな先生と生徒の関係性が好きではなかった。講師を高校生に限ることで、子どもたちとより近い関係、近い距離にしたかったんです」 

 協賛企業を得てわずか1カ月で開塾にこぎつけた三川さん。自らも含めて8人の高校生が週3日、算数や国語などを授業や個別指導を通して教えています。中にはオンラインで東京や台湾から参加する高校生もいます。 

 

無料学習塾「NEW STEP」で子どもたちに教える塾長の三川翔夢さん(左)。語り口はあくまで優しい

 

 

まるで兄のように 

一方、学習塾に通う子どもは57人で、そのほとんどは小学生。より近い関係を目指すというだけあって、児童たちは三川さんのことを「つばさ」「つばさ」と呼び、まるで兄のように慕っています。児童たちの保護者からは「ここに通うようになって子どもが笑顔でいることが増えた」「勉強する習慣がついた」といった声が寄せられているそうです。 

 大学受験を控える三川さんは今後について、「塾の存続は可能だと思います。ずっと続いて、成長していってほしい」と願っています。講師の確保が課題の一つですが、後輩の育成は常に心掛けていて、頼もしい高校2年生が3、4人はいるといいます。また、塾に通っている小学4年生の女の子は、「勉強を教わると、とても楽しい。自分も高校生になったら教えてみたい」と、講師になるのが夢だと話します。 

 「地域の方々の協力や支援があってこそ、NEW STEPの活動は継続できます。NEW STEPで学ぶことによって育った人材が将来、学んだことを地域の課題解決につなげて、地域に貢献する好循環をつくりたい」と三川さんは話しています。 

 

休み時間、ホワイトボードに落書きして遊ぶ子どもたち。講師は兄のような存在だ

 


ココがポイント!

情熱と行動力で課題解決に一役 

 教育格差とは、本人の意志にかかわらず生まれ育った環境などにより教育を受ける機会や質に差が出ることです。学習機会が十分に与えられない子どもたちは学力が低下する傾向が見られ、進学の機会を失い、将来の所得格差にもつながるといわれています。 

 「NEW STEP」の活動は、高校生が主体となって教育格差解消を目指すもので、その情熱と行動力には驚かされます。企画から実現までのスピード感、さまざまな人々を巻き込むコミュニケーション力など、大人が見習うべき点が多々あります。地域の方々の支援と協力で、活動が継続することを期待します。 

 

 

元熊本大学大学院教育学研究科教授 

宮瀬 美津子さん 

(NPO法人くまもと未来ネット副代表)