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「林福連携」の取り組み 県立矢部高校(山都町)

 

県産材で作る福祉用具広めよう 

 県産の木材を活用して福祉に貢献したい─。そんな思いを具体化したのが、県立矢部高校林業科学科の木材利用研究班(本田千秋班長、8人)です。県産材を使って高齢者や障害者に役立つ製品を開発することで、林業と福祉の課題の解決につなげようと「林福連携の取り組み」を進めています。SDGsのゴール3「すべての人に健康と福祉を」などにつながる活動は、昨年末開かれた「くまもとSDGsアワード2024」で優秀賞に選ばれました。 

 

 「林福連携」のきっかけは、2020年度の課題研究の授業で、木工品の端材を何かに活用できないかと積み木を作ってみたことでした。積み木がお年寄りの健康づくりに役立つのでは、という声が生徒から上がり、同高が山都町社会福祉協議会に相談。両者の話し合いの中から翌21年、高齢者の健康増進と高校生の町づくり活動への参加を目的に、認知症予防のためのパズル作りが始まりました。 

 

県外からも問い合わせ 

 当時の林業科学科の2、3年生が認知症について学び、介護予防支援事業などを手掛ける宇城市の企業「Re学」の川畑智社長のアドバイスを受けながら試作を重ねました。県産のヒノキを使って同年11月に完成したパズルは「好きっ! 通潤パズル」と命名。丸や四角、L字など15のピースで構成され、縦約20㌢、横約25㌢の木枠の中に並べて100通りある「正解」に導く仕組みです。 

 出来上がったパズルは反響を呼び、県外からも多くの問い合わせが寄せられたといいます。「認知症予防が狙いなので、福祉施設だけでなく個人の方が『うちの家族に』と購入されるケースが相次ぎました」と指導に当たった同高の米村龍一教諭(49)は話します。 

 木材利用研究班は昨年4月から、ピースの形を変えた第2弾のパズル作りを始めました。2、3年生でデザインを考え、アンケートを取ったり川畑社長にアドバイスをもらったりして改良を重ねました。その結果、2年生の増田元輝さんがゲームの「テトリス」をヒントに考えたデザインが採用され製作を開始。今月26日午後2時から、山都町の矢部保健福祉センター千寿苑でお披露目する予定です。

 

 

 

 

100通りの「正解」がある2種類の「好きっ! 通潤パズル」 (米村教諭提供)

 

オーダーメードで対応 

研究班はまた、木材を活用した福祉用具作りの一環で、パラスポーツとして親しまれている「ボッチャ」の投球を補助する道具「ランプ(勾配具)」作りも手掛けています。交流のある上天草高校福祉科のアドバイスを生かして、ランプの口を広げたり表面を滑らかにしたりして、プレーヤーがけがをしないように工夫したといいます。 

 昨年6月と11月には県教委の「県立高校One Teamプロジェクト事業」として宇城市の松橋支援学校で、同校高等部と矢部高、上天草高の3校の生徒がボッチャをプレーして交流しました。障害の程度やプレーヤーの体格によって市販のランプでは投球が難しいこともあるといい、「オーダーメードで対応できるのが強みです」と米村教諭。研究班のメンバーは「ほかの学校とも協力しながら福祉のことをもっと勉強して、木材を使った福祉用具を広めていきたい」と話しています。 

 ※「好きっ! 通潤パズル」は1セット2500円。問い合わせは山都町社協☎0967(72)3211。

 

「好きっ! 通潤パズル」を手にする矢部高校木材利用研究班のメンバーと米村龍一教諭(左)。前にあるのがボッチャの「ランプ」

 


ココがポイント!

それぞれの強み生かし課題解決

 

くまにちSDGs アクションプロジェクト
 アドバイザー 

澤 克彦さん 

 

EPO九州
(九州地方環境 パートナーシップオフィス) 

 

 

 山都町で学ぶ矢部高生ならではの視点でプロジェクト化された「通潤パズル」は、高校生も地域の方々も楽しみながら取り組める活動です。一見結び付きにくい「林業・木材利活用」と「認知症予防」の二つの課題を同時に解決した点も評価できます。 

 高校生だけでは解決できない課題に対し、地域の専門家や事業所とスクラムを組んで協働できたことが実現の秘訣(ひけつ)といえます。こうした多様な分野の人々がそれぞれの強みを生かしながら課題解決を目指し、もたらす成果を「コレクティブインパクト」と呼びます。SDGs達成のために重要な考え方です。