「ムツゴロウがいた!」。バケツをのぞき込んだ高校生から歓声が上がりました。ここは八代市中北町の球磨川河口の干潟。真夏の太陽が照りつける中、八代地域の環境保全団体「次世代のためにがんばろ会(以下がんばろ会)」(松浦ゆかり代表)から生まれた高校生グループ「エコユースやつしろ」のメンバーは、干潟で見つけた生き物の調査に夢中です。その活動は、SDGsのゴール11「住み続けられるまちづくりを」や14「海の豊かさを守ろう」などにつながっています。
がんばろ会が誕生したのは2001年7月のこと。八代市の環境政策に意見を反映させるために任命された市民代表が中心となって結成されました。メンバーは現在、20代から80代までの17人。当初から代表を務める松浦さん(66)は「八代の人は八代のことをよく知らないで『八代って何もないね』と言うんです。そんな状況を払拭したい」と活動の狙いを話します。
がんばろ会はまず、河川の濁りをろ過する機能に優れた牡蠣(かき)殻を用水路に沈める「かき殻まつり」に取り組みました。毎年開催したまつりは、地元住民や子どもたち約千人以上が参加する大きなイベントになり、15年ほど続いたといいます。
環境をテーマにした小中学校などへの出前授業にも力を入れています。川に近い学校では川の水質検査をしたり、資源ごみの分別を呼びかけて海洋投棄問題の啓発につなげる授業を開いたりと、多いときは年に50回以上も開催するそうです。
がんばろ会の傘下団体として21年7月に結成されたのが高校生のチーム・エコユースやつしろです。「水」や「環境」をキーワードとして体験学習を重ね、その成果を世界へ向けて情報発信できる人材の育成を目指しています。メンバーは現在、六つの高校の116人。水に関する専門家からの講義や野外活動など、年間を通じてさまざまな体験型プログラムをがんばろ会が提供しています。
今年4月から始まった球磨川河口の干潟での「いきもの調査」もその一つ。この日はメンバーらが干潟に穴を掘ったり石を裏返したりして、ハクセンシオマネキやアシハラガニなどの生き物を探していました。もちろん調査が終われば元の状態に戻します。
講師として参加したひのくにベントス(底生生物)研究所の森敬介所長(67)は「球磨川河口は健全な干潟が残っていて、生物多様性の面からも貴重。観察会を通して地元にこんな生き物がいる、大事にしないと、と思ってくれれば」と話します。また、エコユースやつしろの濵田優雅さん(通信制高校3年)は「知らなかった生き物が八代にいることを知ることができた。きれいな干潟を守らなきゃいけないと思いました」と言います。
松浦代表は「八代はこんなに自然が豊かでいい所なんだ、と若い人たちに分かってもらいたい。そして彼らがそのことを次の世代に伝えていってほしい」と話します。
10月には同じ球磨川河口で、八代市内の高校生600人以上が参加する「大そうじ大会」が予定されています。がんばろ会の活動は、地域の未来を支える人材を着実に育てています。
くまにちSDGs アクションプロジェクト
アドバイザー
澤 克彦さん
EPO九州(九州地方環境 パートナーシップオフィス)
環境保全団体の長年にわたる活動ノウハウを生かし、ユース(若者)が学校の垣根を越えて生き生きと活動することで、地域のSDGs達成に向けた原動力を生み出しています。
さまざまな専門家と連携した干潟の生き物調査では、定点観測を続けることで小さなデータが少しずつ積み重なっています。
活動を通して、八代の未来に対する高校生の視野が広がり、八代海の自然環境(SDGsゴール14)と暮らし・まちづくり(SDGsゴール11)を結び付けた持続可能な視点を持つ、地域に根付いた若者が増えることが期待されます。