少し曲がっているものや大きさが不ぞろいなもの、傷がついているもの…。そんな市場に出回らない規格外の野菜や花の存在を広く知ってもらい、廃棄から救おうというグループが熊本県立大学(熊本市)の学生団体「SalVage(サルベジ)」です。SDGsのゴール2「飢餓をゼロに」や11「住み続けられるまちづくりを」、12「つくる責任つかう責任」を目標に、持続可能な社会に少しでも近づこうと活動を続けています。
「サルベジ」は2020年9月、規格外野菜の普及と地域創生を目指す自主研究グループとして、学生有志6人で活動を始めました。サルベジとは英語で、遭難した船の乗客や積み荷などを救助すること。規格外の野菜や花を救うことを難破船救助に見立てて名づけられました。もちろんベジタブル(野菜)もかけられています。
現在のメンバーは1~3年生10人。代表を務める3年生の藤本芽依さん(21)は、1年生の時に大学であったボランティア団体が集まるイベントでサルベジの存在を知り、「面白そう」と参加しました。「高校の時はボランティア部に所属していて、もともとこうした活動に興味がありました」と話します。
メンバーの平岡聖奈さん(20)は、祖父の家庭菜園を手伝っていたことがきっかけでした。「畑の隅に捨てられる野菜は自分にとっては当たり前だったけど、大学に入って捨てられる野菜の存在を知らない人もいて、もっと広めたいと思いました」
サルベジの主な活動は、野菜や花を作る農家を訪ねて話を聞き、取材することです。規格外がどれだけ出て、それを減らすために農家がどんな工夫をしているのか、また作物を育てる上での苦労などを聞いて、SNSで発信しています。
ほかにも、熊本県立大食育推進室と共同で規格外の野菜を使った弁当とスープの献立を考えて大学食堂で販売したり、肥後花市場(熊本市)と一緒に阿蘇市の阿蘇神社近くの水場「水基」に規格外の花を浮かべて鮮やかに彩ったりと、多彩な活動を続けています。肥後花市場では、規格外のバラやカーネーションの花びらを乾燥させたものを樹脂に混ぜ込んだ箸置きや、香料を加えたサシェ(香り玉)など、雑貨の制作販売もしました。
また昨年の夏休みには、熊本市の若葉小学校児童育成クラブで、規格外野菜についてのワークショップを開きました。ピーマンやオクラなどの野菜のへたでスタンプを作り、紙に押して楽しんだり、クイズを交えて規格外の野菜がたい肥になることなどを話したりすると、子どもたちは興味深そうに耳を傾けていたといいます。
昨年12月には、学内で開かれた地域住民も参加するマルシェ(市場)で規格外野菜を仕入れて販売。「こんな野菜が店で売ってあれば買うのに」と好評だったそうです。藤本代表は「これからも規格外野菜を販売する機会があればやってみたい」と意気込みます。学生たちの地道な活動は、持続可能な熊本をつくる上で貴重な取り組みです。
くまにちSDGsアクションプロジェクト
アドバイザー
澤 克彦さん
EPO九州(九州地方環境 パートナーシップオフィス)
規格外の野菜や花の存在は、普通に生活しているだけでは気付きにくい課題です。サルベジの活動は、こうした課題に、ユース(若者)の目線で向き合う取り組みとして注目されます。市場の中で“弱者”として扱われるものにも活用の道を開拓し、地域の魅力につなげ、新たな価値を生み出しているのです。
SDGsのゴール12・ターゲット8は「自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つ」ことを示しています。農家の話を聞き、学食関係者や子どもたちに伝える─。一つ一つは小さな活動ですが、熊本の学生だからこそ発信できるSDGsです。