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フードロス削減 肥後銀行(熊本市)

賞味期限間近の食品 アプリでお得に 

 

 〈新たなへるぷ(ロス)が発生しました〉。無料通信アプリLINEにこんな通知が。「へるぷ」とは、賞味期限が近い食材や作り過ぎたり売れ残ったりして販売機会を失いそうな商品のこと。肥後銀行が開発したアプリ「かせする」は、そうした商品を割安で販売する機会を提供します。「かせする」を使うことで、事業者は売れ残りそうな商品を廃棄せずに販売でき、消費者はパンやスイーツなどをお得に購入できます。食品ロスの削減になり地球にも優しいこの“三方よし〟の取り組みは、SDGsのゴール12「つくる責任 つかう責任」などにつながっています。 

 

 肥後銀行が「かせする」の準備に取り掛かったのは2022年のこと。「30年後、銀行としてどうありたいか」をテーマにした管理職の研修で、地域のロスを地域で助け合うことで解消できないか、という問題意識から新規事業として取り組むことになりました。 

 その背景には、企業融資を手掛ける際に、余った在庫の扱いに悩む事業者が多かったことがあります。「雨の日に傘を差し掛けるように、困っている人の助けになりたい」。そんな思いが「かせする」につながったと同行経営企画部の永野栄一さん(48)は話します。 

 

肥後銀行が開発したアプリ「かせする」の画面

 

新規顧客の開拓にも 

 消費者調査を重ねてLINEを使うことを決め、今年5月から熊本日日新聞社と連携して実証実験を始めました。 

 商品を販売したい事業者は参加フォームから申し込み、専用サイトにログイン。商品の写真と名称、価格、在庫数を入力して登録します。それが冒頭紹介した「へるぷ」で、割引率は店側が任意で決めます。 

 一方、購入する際はLINEで「かせする」の公式アカウントを友だち追加。へるぷ一覧から希望の商品を選び、クレジットカードで決済して店まで取りに行く仕組みです。宅配の方が便利では、と思いがちですが、「物流を間に挟むとコスト高になります。それに店に足を運んでもらうことで新規顧客の開拓にもつながっています」と同行経営企画部の田中栄光さん(37)。 

 

ウィンウィンの効果 

 実証実験は12月末まで続ける予定。5月に開始してから11月14日までに、パンや洋菓子など45の事業者が参加。登録ユーザーは5439人で、購入件数は1539件に上ります。 

 10月に「かせする」に参加したりんご飴の製造・販売を手掛ける林檎堂(熊本市)はこれまで、売れ残りそうな商品は他の店舗に回したり試食に活用したりしていましたが、ロスをゼロにはできませんでした。「アプリを通じて食品ロスが削減され、スタッフの意識も向上しました。消費者側も商品を安く購入できる上に、『かせする』での購入自体がSDGsにつながるという意識を持つことができ、ウィンウィンの効果があります」と林檎堂執行役員の秋山桂輔さん(33)は話します。 

 

「かせする」の加盟店「林檎堂」の前で語り合う、左から肥後銀行経営企画部の中島日菜子さん、田中栄光さん、永野栄一さん、林檎堂執行役員の秋山桂輔さん、同代表の天野裕斗さん=熊本市西区、林檎堂JR熊本駅店

 

 「かせする」は食品ロスの解消に特化したアプリですが、将来的には企業の「在庫ロス」や「設備ロス」、つまり貸し会議室やカラオケ、スポーツジムなどで予約が急にキャンセルされた場合でも対応できるようなシステムを目指すといいます。「地域の方が元気になれば笑顔も増える。『かせする』で少しでも地域に貢献できれば」と同行の担当者は話しています。 


ココがポイント!

三方よし”“四方よし”の効果を期待 

 

 

元熊本大学大学院教育学研究科教授 

宮瀬 美津子さん 

 

(NPO法人くまもと 

未来ネット副代表) 

 

 

 

 食品ロスとは、「まだ食べられるのに廃棄される食品」のことです。消費者庁HPによると、日本では年間472万トン(2022年)の食品ロスが発生し、これは世界の食糧支援量とほぼ同じです。 

 肥後銀行が開発したアプリ「かせする」は、売り手や買い手だけでなく社会にとってもよいものであるべきという近江商人の“三方よし”の精神を具体化した取り組みといえます。また、そこに関わる従業員や家族にもプラスになる“四方よし”が期待できます。 

 実証実験終了後も、誰もが気軽に利用できるアプリとして地域に定着していくことを願っています。