「はて?」。昨年放送されたNHK連続テレビ小説『虎に翼』の主人公が口にするこの言葉は、多くの人の心を捉えました。ドラマの脚本を書いた吉田恵里香さん(37)が先日、熊本市で講演。「自分の人生は自分で選択する、というのが大きなテーマ」などと語りました。吉田さんのメッセージは、SDGsのゴール5「ジェンダー平等を実現しよう」や、10「人や国の不平等をなくそう」などにつながっています。
講演会は6月29日、熊本市中央区の市男女共同参画センターはあもにいで開かれました。同市と熊本県弁護士会主催。ドラマの人気を反映して市民ら約340人が詰めかけました。

熊本市男女共同参画週間記念講演会で話す吉田恵里香さん=6月29日、熊本市男女共同参画センターはあもにい
『虎に翼』は日本初の女性弁護士の一人で裁判官になった三淵嘉子さんをモデルに、戦前から戦後にかけての女性や生きづらさを抱えた人々を描いた作品です。ドラマは、主人公が日本国憲法公布を知らせる新聞を読むシーンから始まります。そこにナレーションで流れるのが法の下の平等をうたう14条。吉田さんは「14条は基本的人権の尊重とともに、誰からも侵されない私たちの権利を憲法に残してくれているもの」と言います。
モデルになった三淵さんが新しい憲法を目にした時に「自分たちの時代が始まった」と涙を流したというエピソードを知って、「憲法がどう作られ、私たちの大事な支えになっているかを示す必要がある」と考えたそうです。みんなが差別されず平等であるはずなのに、生きづらさを感じている人は大勢いる。それはなぜかを考える上で、一番のよりどころになるのが14条だといいます。
『虎に翼』の大きなテーマである「自分の人生は自分で選択する」は、吉田さんが作品に込めたメッセージです。「自分がどう生きるか、どう幸せであるかを選ぶ権利は人権に直結します。でも人権意識はなかなか根付かない。自分の権利を主張しにくい世の中なのかなと思っています」
主張することはわがままでもズルでもない、と吉田さんは言います。『虎に翼』の主人公も自分の考えを主張し行動したことで、視聴者から否定的な感想が寄せられたそうです。しかし「さまざまな意見が飛び交い、議論がたくさん生まれるのがエンターテインメントや物語の力」と吉田さん。一人一人が対話を深めてもらえたらうれしいと思いながら作品を書いた、と執筆時の心境を語りました。

講演会後に取材を受ける吉田恵里香さん=6月29日、熊本市男女共同参画センターはあもにい
「はて?」という言葉も、問題提起をするだけでなく自分に問う言葉でもある、と吉田さん。「対話を前提にした時、『はて?』と自問しながら相手にキャッチボールの球を投げるのがいいのかな、と思っています。相手の心のシャッターをいかに閉じさせないかが大事で、そこから思ったことを口に出して対話していく。それをこの口癖に込めたつもりです」
「私はとにかく強い女性が書きたかった」と吉田さんは言います。質疑応答で「強い女性とは」と質問されると、「少々、自己中心的でもいいから自分の信念のために生きる女性。トラちゃん(ドラマの主人公)のように失敗しても謝って修正して、立ち上がり、でも時々天狗[てんぐ]にもなるし、自分の欲求も大事にして、自分の人生の選択を持っている人」と答えました。
講演の最中、子どもが泣き始めるハプニングがありました。参加者が子どもを連れて会場を出ようとすると、吉田さんは「そのまま座っていてください。泣いても大丈夫ですよ」と声を掛けました。吉田さんの優しさや「強さ」を感じさせる、印象的な場面でした。

吉田恵里香さんの著書

くまにちSDGs アクションプロジェクト
アドバイザー
澤 克彦さん
EPO九州
(九州地方環境 パートナーシップオフィス)
SDGsでは、性別にかかわらず一人一人の意思決定の機会が重視されています。しかし、148カ国の男女平等度を順位付けした2025年版「国際ジェンダー・ギャップ報告」によると、日本は118位(昨年同位)にとどまっています。
吉田さんが作品に込めた「自分の人生は自分で選択する」ことは、私たちの選択の機会を確保し、「誰も取り残さない」社会の実現に欠かせないスタート地点と言えます。