SDGs朝刊特集 掲載記事アーカイブ

一般財団法人 あしなが育英会 

遺児らの学び、支え続ける

 「今年も全国で『誰も取り残されない未来へ』をテーマに支援を呼び掛けています。皆さまの温かいご理解とご協力をよろしくお願いします」-。熊本市の鶴屋百貨店前の歩道に募金を呼び掛ける声が響きます。親を亡くしたり、親に障害があったりする子どもの学びを支える「あしなが奨学金」の募金活動です。奨学金を運営する一般財団法人「あしなが育英会」(東京)の長年にわたる活動は、SDGsのゴール1「貧困をなくそう」や、4「質の高い教育をみんなに」などにつながっています。

 

 4月27日、鶴屋前で募金を呼び掛けていたのは熊本県立大4年の谷岡奈央さん(22)=同市。あしなが奨学金を受けている大学生ら480人でつくる全国組織「あしなが学生募金事務局」の事務局長を務めています。

 谷岡さんは高校1年の時に父親が病気で倒れ、生活が一変。家事を一手に引き受け、放課後はアルバイトを掛け持ちして働きました。あしなが奨学金の存在を知ったのは県立大に進んだ1年生の時。「学校が終わると深夜1時までアルバイトをしていたのですが、奨学金を受け始めてから勉強に集中できるようになり、本当にありがたかったです」と当時を振り返ります。

 あしなが学生募金は4月と10月の年2回、各地の街頭で募金を呼び掛けています。今年4月12日、東京都で開かれたオープニングセレモニーには、20人超の学生ボランティアが集まりました。

 

春の街頭募金に先立って行われた「第109回あしなが学生募金」全国オープニングセレモニー=東京都、4月12日

 

 

深刻な子どもの貧困

 あしなが育英会のルーツは、会長の玉井義臣さん(90)が、母親を交通事故で亡くしたことをきっかけに1967年に始めた交通遺児救済運動です。同じ年、初めての街頭募金を行い、8日間で30万円が集まったといいます。以来、60年近くにわたってあしなが運動は続いてきました。

 あしなが育英会は、病気や災害など交通事故以外の遺児らにも支援を広げようと93年に発足。2024年度までに約6万2千人を支えてきました。しかし近年は、奨学金を希望する申請者の増加に対して、募金活動などを通じて集める資金が追い付いていない現状があるといいます。高校生向け奨学金の採用率は80~90%で推移していましたが、24年度は全国で申請が過去最多の3487人に上ったのに対して、支給対象となったのは1538人で採用率は44・1%。県内では申請者76人に対して採用が35人、採用率は46・1%にとどまりました。

 その要因としては、一部貸与だった高校生向け奨学金を23年度から全額給付とした制度変更のほか、「最近の物価高の影響で、子どもの貧困が深刻になっていることがあります」と育英会は話します。昨年7月に育英会が行ったアンケートでも、94・2%の保護者が「収入が物価上昇分をカバーできない」と答え、苦しい生活実態が浮き彫りになりました。
 

奨学生の海外研修も

 育英会の事業は奨学金だけではありません。各地に「レインボーハウス」と呼ばれる施設を設けて親を亡くした子どもたちの心のケアに取り組んだり、オンラインで教育支援を行ったりしています。また、奨学生の海外留学研修も事業の一つです。冒頭紹介した谷岡さんも23年に9カ月間、海外研修でアフリカのウガンダに滞在。現地の子どもたちの学習支援などを行いました。「9カ月が一瞬と感じるほど充実していて、自分が急成長できたと思います」と振り返ります。

 「あしなが育英会の活動を一人でも多くの人、特に若い人に知ってもらい、困っている人がいたら誰かが助けてくれる、自分が誰かを助けられる社会であってほしいです」。谷岡さんはそう話しています。

 

鶴屋百貨店前で募金を呼び掛ける谷岡さん=写真左、4月27日


ココがポイント!

共助で支える学びと成長

 

くまにちSDGs アクションプロジェクト
 アドバイザー 

澤 克彦さん 

 

EPO九州
(九州地方環境 パートナーシップオフィス) 

 

 

 

 一人一人の豊かな暮らし(最近は「ウェルビーイング」と言います)の実現には、学びと成長の機会が平等に保たれていることが重要です。家族を失うことにより、経済的・精神的・社会的に困難な状況にある学生一人一人を、あしなが育英会が奨学金を通して支えます。それは、単に学費支援にとどまらず、孤立しがちな当事者たちのつながりと発信を通した連帯となり、共助社会の礎となります。