チップ状に砕いた竹を使って生ごみを堆肥に変えたり、土壌改良に効果がある竹炭を作ったりと、菊池農業高校(菊池市泗水町)のSDGsプロジェクト班は放置竹林問題の解決に取り組んでいます。竹資源を活用して脱炭素社会の実現につなげようという活動は、SDGsのゴール2「飢餓をゼロに」や、13「気候変動に具体的な対策を」などにつながり、数々の賞にも輝いています。
菊池農高の敷地は36ヘクタールと、東京ドーム8個分ほどの広さといいます。その中にある広大な農場では、生徒たちが馬の世話をしたり農機具の整備をしたりと、それぞれの作業に汗を流していました。
SDGsの目標達成に向けて学校全体でさまざまな活動に取り組んでいる菊池農高の生徒たち=4月17日、菊池市
同高が放置竹林問題に取り組み始めたのは2020年。農場で育てているトウモロコシや白菜などの作物が、イノシシなどの野生動物に食い荒らされたのがきっかけでした。生徒たちが鳥獣被害の原因を調べてみたところ、手入れが行き届かなくなった竹林が野生動物の餌場やすみかになっていることが分かってきました。放置竹林が森林の治水機能を低下させることも分かったといいます。
そこで同高農業科の生徒が中心となって、竹の活用法の研究を始めました。菊池市内で竹林の整備を行うNPO法人に指導を仰ぎ、菊池神社や校内の竹を伐採。切った竹で門松や竹灯籠を作りました。また、粉砕機で竹を細かく砕いて有機発酵肥料を作ったり、ニワトリや馬の寝床に敷く素材として利用したりしました。
さらに、食の分野でも竹を活用。干しタケノコやおやきを作るなど利用法を探りました。地域の飲食店と連携して、干しタケノコを使ったメンマ作りにも挑戦したといいます。
最も力を入れているのは、竹チップを使って生ごみを堆肥化する段ボールコンポストと、バイオ竹炭作りです。培養土に竹チップを混ぜたコンポストは、高校の寮の生ごみで実験した結果、1箱で年間約150キロを処理できたといい、市民向けの講習会を開いて生徒が作り方を教えています。
また、無煙炭化器で作る竹炭は酸性土壌を中和し、土壌の保水性や通気性を改善する効果があり、土壌中の微生物の繁殖も高めます。さらに、炭素を土壌中に固定することでCO2削減効果があるといいます。
段ボールコンポストの使い方をJA菊池の女性部のメンバーに説明する菊池農業高校の生徒たち=2024年7月、菊池市
プロジェクト班の渡辺悠慎さん(3年)は、活動を通してそれまで知らなかった放置竹林問題を深く知ることができたと言います。「竹林のために困っている人がいることも知りました。段ボールコンポストの作り方をもっと広めたい」。
村上遥さん(同)はコンポストで作った堆肥の効果を詳しく調べたいと考えています。「コマツナとラディッシュ、タマネギを栽培して調べた結果、竹炭の混合率は20%程度が適量だと分かりました。ほかの野菜についても調べたいですね」と意欲を燃やします。古嶌翔さん(同)も、菊池市中心に開いているコンポストの講習会をほかの地域にも広めて、「少しでもSDGsに貢献したい」と意気込みます。
同高の活動はこれまで多くの賞を受けています。先日開かれた、高校生が社会課題解決のアイデアを競う「SDGsQUESTみらい甲子園県大会」でも最優秀賞を受賞。大阪・関西万博に招待されることになり、生徒たちは大喜びです。また、ドミノ・ピザが主催する「産直ドミノ基金Ⓡアワード2024」でもCEO特別賞に選ばれ、23日に同高で表彰式が行われます。「形は少しずつ変わっても、SDGsの取り組みを続けていくことが大切だと考えています」とプロジェクト班は話しています。
EPO九州(九州地方環境パートナーシップオフィス)
勝家伸男さん
菊池農高の生徒は、鳥獣被害や竹林の繁茂など身近な地域課題と向き合う中で、グローバルな視野を育み、国内外の団体・機関から多くの表彰を受けています。生徒と先生が二人三脚で情熱的に取り組むプロジェクト班の活動は、「自分ならできる」という生徒の自信につながり、学校全体でも協働の機運が高まります。彼らの活動は菊池川流域、全国に波及し、学校や地域を超えた学び合いにもつながっています。