社会に役立つ人になろう、ではなく、人の役に立つ社会をつくろう」。俳優の東ちづるさんは、そんな思いから一般社団法人「Get in touch(ゲット・イン・タッチ)」を設立して代表に就任、長年ボランティア活動を続けています。障がい者やLGBTQなどの性的少数者ら多様な人々が生きやすく、誰も排除されない「まぜこぜの社会」を目指す東さんの活動は、SDGsのゴール3「すべての人に健康と福祉を」や、10「人や国の不平等をなくそう」などにつながっています。
性的少数者らへの理解を求めるイベント「東京レインボープライド」の パレードに参加して行進する「Get in touch」の関係者ら。イベント には毎年参加している。(東ちづるさん提供)
広島県出身の東さんは、4年間の会社員生活を経て芸能界入り。多くのテレビドラマやバラエティー番組に出演しています。社会活動を始めたのは32歳の時。白血病の17歳の少年を取り上げたドキュメンタリー番組を見たのがきっかけでした。
東ちづるさん
「その番組だけでは、なぜその少年が全国ネットで自分の病気を告白したのかが分からなかった。調べてみて、日本にも骨髄バンクができたことを知ったんです」。東さんは早速、行動に移りました。自身で骨髄バンクに登録。さらに患者や家族に話を聞いて、その声を伝えるために、骨髄バンクとはどういうものか、ドナー(臓器提供者)がなぜ必要なのかを講演して回りました。
骨髄バンクのほかにも、紛争で苦しむ地域の子どもたちを支援するドイツ国際平和村や障がい者アートなど、東さんの活動は多岐にわたります。だが、2011年の東日本大震災で厳しい現実を突きつけられます。
「メディアは『絆』や『寄り添う』『頑張ろう』と美しい言葉を並べたけど、それについていけない人たちがいました。見えない、聞こえない人たちが救援物資を十分に入手できなかったり、障がいのある子どもがいる家族が避難所に入ることをためらって、車で過ごしてエコノミー症候群になったり。おばあちゃんがみんなの足手まといになりたくないからと、おじいちゃんのお墓の前で命を絶ったこともありました」
社会が不安に陥った時、普段から生きづらさを抱えている人たちが、より追い詰められてしまう現実があったといいます。
同じ年に日米共同で開かれた自閉症に関するイベントをきっかけに、東さんは翌年、ゲット・イン・タッチを設立しました。目指すのは、誰もが個性を生かして豊かな人生を創造できる共生社会の実現です。そのための手段として、東さんは「笑い」や「エンターテインメント」を重視します 。
「真面目って素晴らしいけど、真面目に伝えようとすると意識高い人しか集まらない。広く浅く緩くみんなとつながるためには、楽しくないと無理なんですよ」。17年には義足・車いすのダンサーや全盲の落語家、ダウン症のダンスチームなどマイノリティーのパフォーマーを集めた「まぜこぜ一座」を結成。舞台公演を行ったり、映画を制作したりと力を入れています。
ゲット・イン・タッチの役割は、当事者の団体や企業、行政の間に横ぐしを刺すこと、と東さんは強調します。「縦割りはすごくもったいない。だからいろんなところに声をかけて、みんなでやりましょうと。そこから新しいつながりが生まれる。カテゴライズ(分類)しない社会をつくりたいんです」
自身を「ワクワクをつくるプロ」という東さん。「まぜこぜの社会」に一歩でも近づけるために、多くの人や団体をつなげて、みんなを笑顔でワクワクさせながら活動を続けていきます。
多様な特性のあるパフォーマーや東ちづるさんらが出演した映画「まぜこぜ一座殺人事件」。今年2月、熊本市の映画館でも上映されたⓒSAPCHANO
くまにちSDGsアクションプロジェクトアドバイザー
澤克彦さん
EPO九州(九州地方環境パートナーシップオフィス)
東さんが目指す「まぜこぜの社会」のように、誰も排除せず社会の一員として包み支え合うという理念を「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」と言います。この考え方は「誰一人取り残さない」というSDGsの理念とも一致します。難しく考えてしまうと何も進みませんが、「笑い」や「エンタメ」を通して楽しく考えることで、多くの人々が関わるきっかけと裾野が広がります。