SDGs朝刊特集 掲載記事アーカイブ

第3回 社会福祉法人 肥後自活団

SDGs×多様な若者たちの自立

「誰一人取り残さない」ために 目指すは「共生社会」の実現

SDGsでは持続可能な社会をつくるうえで「誰一人取り残さない」ことを目指しています。未来を担う若者も、当然その中の一人。熊本県によると、本年度の県内の新成人は1万7504人。その中には社会進出する際にサポートを必要とする人たちもいます。

今回は、障がい者支援に取り組む社会福祉法人肥後自活団の活動を通して、障がいのある若者が安心して暮らせる社会づくりに必要なことを考えます。

 

 

地域で支える 人と人が支え合う 意識を共有する

熊本市社会福祉施設連合会研修会の様子 =6日、熊本市中央区

 

 肥後自活団が運営する「大江学園」(熊本市東区渡鹿)は、障がいのある18歳未満の児童が入所して日常生活を送りながら、一人で生活するための必要な知識や技能の取得を目指す障がい児入所施設です。同園では2021年度からSDGs実現に向けた取り組みをスタートさせ、昨年11月、第一歩としてスタッフ向けに専門家による研修会を実施。同園施設長の塘林敬規さん(53)は、「SDGsの活動に取り組むことが、障がいのある若者が自立しやすく、安心して共に暮らせる環境づくりのきっかけになる」と期待を寄せています。

 障がいのある子どもたちは児童福祉法の対象である18歳まで学校や施設で学び、卒業すると自分の力で社会生活を始めなければなりません。塘林さんは「支援を求めれば受けることはできますが、うまく相談できなかったり、自立して生活するには考え方や力がまだ足りなかったりする人もいるのが現状です。当園ではそのような卒園生のアフターフォローをしていますが、本来は一施設がサポートし続けるのではなく、地域で支えていく必要があります。そのような意識を園内はもちろん、関連施設や地域社会と共有するうえでSDGsは分かりやすい考え方であり目標になります」。

 さらに塘林さんは、同園が所属する熊本市社会福祉施設連合会でもSDGs研修会を取り入れるよう提案。1月6日、加盟する62施設のうち34施設が参加し、1回目が開催されました。同会会長の甲斐國英さん(67)は「当会には子どもを対象とした施設や高齢者施設などさまざまな福祉施設が加盟しています。みんなで学ぶことで、課題について相談しやすく協力しやすい体制を構築できるはず。この研修会は地域みんなで支え合う、いわゆる“共生社会”をつくっていくきっかけにもなるでしょう」と先を見据えます。

“お互いさま”の気持ちが未来へのキーワードに

「大江学園」スタッフの漆島なぎささん(右)と卒園生の甲斐智秋さん

 

 「大江学園」では必要に応じて卒園生へ生活面のサポートをしています。卒園生の甲斐智秋さん(22)は、18歳から賃貸アパートで一人暮らしをスタート。就労継続支援A型(※)を活用しながら忙しい日々を送っています。「高校生の頃から、いずれは一人暮らしをしたいと思っていて、掃除やゴミ捨て、洗濯、料理など生活に必要なことは大江学園で教えてもらいました。一人暮らしを始めて、好きなことをできる時間が増えたので良かったです」とにっこり。

 同園の保育士・介護福祉士の漆島なぎささん(61)は、甲斐さんが12歳で入所して以来、ずっと見守りを続けています。卒園後は家に時々様子を見に行き、苦手な掃除やゴミ出しを手伝ったり、近況や困っていることがないか話を聞いたりしているそうです。その根底にあるのは“サポートしなければいけない”という義務感ではなく、“お互いさま”の気持ち。

 「私たちは支援する中で、入所者や卒園者の笑顔から元気をもらっています。だから、お互いさまなんです。障がいのある方々の地域社会での生活をみんなが理解し、差別や偏見のない支え合える社会になればと思います」と漆島さんは未来への希望を口にします。

※事業所と雇用契約を結び、働きながら訓練も受けて就職のための知識・能力を身に付け、さらに就労移行訓練を経て一般企業への就職ができるように支援する福祉サービス

 


ココがポイント!

困ったときには「困っている」と言える社会に

NPO法人 SDGs Association 熊本        代表理事 神田みゆきさん

 

 人は誰にでも、不得意なことがあります。また、年を重ねたり、病気になったり、色々なきっかけによって、今できていることができなくなる可能性もあります。「誰一人取り残さない」の「誰」は、自分自身も含みます。“お互いさま”の気持ちで、地域みんなで支え合い、サポートする仕組みをつくり、困ったときには「困っている」と言える関係性を築いていくことで、自分も含む、全ての人にとって過ごしやすい世界になっていくことでしょう。

 

 

 

※NPO法人 SDGs Association 熊本は、SDGsをキーワードとして、人と人とをつなぐ取り組みを行うとともに、さまざまな学びの場の提供をしている