SDGs(持続可能な開発目標)の先進的な取り組みを顕彰する「くまもとSDGsアワード2022」の初の表彰式がこのほど、熊日本社であった。県のSDGs登録制度の登録事業者が対象の「牽引」と、個人・団体が対象の「未来づくり」の2部門に計78件の応募があり、最高賞の特別功労賞には公益財団法人「肥後の水とみどりの愛護基金」が選ばれた。上位入賞団体の活動を紹介する。
「くまもとSDGsアワード」で入賞した14 団体の皆さん
アワードは熊日や県、経済団体などでつくる実行委員会が創設。「牽引」部門と「未来づくり」部門に計78団体・個人が応募。1次書類審査で各部門とも15団体を選出。県と熊日、有識者ら7人でつくる選考委員会の2次書類審査で各部門7団体、計14団体に絞り、プレゼンテーションによる3次審査を経て受賞者が決まった。「牽引」部門の大賞はコンサルティングなどで企業を支援する肥後銀行、「未来づくり」部門の大賞は食品廃棄物のみで豚の飼育などに取り組む熊本農高の「養豚プロジェクト」だった。
表彰式では、実行委員会共同代表の蒲島郁夫知事が「これほど多くの実践的な取り組みがあることを大変うれしく、また心強く思う。日頃よりSDGsの推進に向けて地道な活動を続けている皆さまに心から敬意を表したい」とあいさつ。 選考委員会委員長を務めた熊日の山口和也常務取締役は講評で「応募団体の活動はどれもSDGsのさまざまなゴールを意識した多彩な内容で、第1回アワードにふさわしいレベルだった。特に、最終審査に残った14団体の刺激的な活動を、私たち選考委員会は驚きと共感を持って受け止めた。このアワードは必ず熊本のSDGsの底上げにつながると確信している」と話した。
◆くまもとSDGs牽引部門
株式会社杉養蜂園:養蜂業を通じた環境保全や途上国支援に尽力
株式会社アミカテラ くまもと益城工場:竹など植物由来の環境に優しい原料でストローや食器を製造
西田精麦株式会社:穀物栽培、加工技術の途上国への移転に取り組む
◆くまもとSDGs未来づくり部門
水俣高校:鳥獣対策や建築学習のための多様なネットワークを構築
熊本大学工学部公認サークルSoleil:視覚障害のある子どもたちに大学生が開発した学習補助教材を提供
熊本まちなみトラスト:熊本地震で被災した古民家の保存
菊池南中学校:生徒の高齢者宅訪問など多彩な地域活動を推進
公益財団法人「肥後の水とみどりの愛護基金」(熊本市)は、熊本の宝である地下水の保全と、それを涵養する森林や水田の維持・育成活動を36年前から続けている。熊本らしいSDGsの取り組みの草分け的活動であり、先見性を持って地域全体を先導してきたことが評価された。
具体的な取り組みの一つが、地下水保全や緑化推進に取り組む団体と個人を顕彰する「肥後の水とみどりの愛護賞」。1987年から継続している助成金事業で、これまでに346団体・16個人を表彰、助成金累計は1億405万円に上る。
「阿蘇大観の森」と「阿蘇水掛の棚田」の全景
2006年からは阿蘇北外輪の「阿蘇大観の森」(約59㌶)で肥後銀行や民間企業と連携して植樹や間伐などを実施。雨水を地中に染み込ませ地下水を育む森林や草原、水田などを保全・育成している。11年からは阿蘇市の耕作放棄地を「阿蘇水掛の棚田」として復活させ、稲作を続けている。また、熊本市内の小中学校で水質調査学習会を実施し、活動状況をSNSで発信するなど啓発活動にも力を注いでいる。
同法人の甲斐隆博理事長は「今後、熊本の地下水の需給バランスがどうなっていくかを科学的に解明・立証していくことが求められており、産学官民が連携してDXを推進し、地下水の需給バランスをシミュレーションできる体制整備を行っていくことが必要」と今後の展望を語った。
肥後銀行(熊本市)は、金融支援をはじめ企業向けコンサルティングや地下水保全、地域の脱炭素化など多岐にわたって活動している。県のSDGs登録制度に1600社を超える企業が登録していることに同行が貢献したことも評価された。
2020年からスタートした「ひぎんSDGs私募債」では、SDGsに取り組む企業90社超を金融面で支援。また同年、企業向けSDGsコンサルティング業務も開始し、これまでに170社を超える企業のSDGsの目標設定や行動計画づくりをサポートしてきた。
SDGsコンサルティングのメンバー
21年から開始した「カーボンニュートラルコンサルティング」では、勉強会の実施やCO2排出量算定のサポートなどを通して企業の脱炭素経営を支援。また、県内の全支店に使用済み天ぷら油の回収拠点を設置し、協力企業が環境負荷の少ないバイオディーゼル燃料に再生することでCO2削減につなげている。
家庭で余っている食品を集めて必要としている施設や人へ寄付する「フードドライブ」や、子ども服のリユース活動などにも取り組んでいる。
「イノP」(宇城市)は、鳥獣害対策に取り組む県内の若手農家でつくる「くまもと☆農家ハンター」(約130人)を運営。ICTを活用しながら、イノシシ被害から地域と畑を守る活動をしている。
「くまもと☆農家ハンター」キックオフミーティングの参加者
持続可能な対策を行うため、2019年に民営の解体施設「ジビエファーム」を設立。味の優れた部位はジビエに、脂はせっけんに、未利用部位はたい肥に加工するなど新たな価値を創出した。これらの活動はこれから地域を担う人材の育成にもつながっており、同じ悩みを抱える全国のロールモデルとして期待されている。
住宅メーカー「Lib Work」(山鹿市)は、家づくりを通じてカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)や持続可能な社会の実現を目指している。手掛ける住宅には、新聞古紙を再利用した環境に優しい断熱材を使い、ソーラーパネルを無料設置。資材調達から住宅完成までに排出される温室効果ガスの量を見える化し、排出量削減にも努めている。
Lib Workの熊日RKK展示場モデルハウス「アフタヌーンティーハウス」
また、多様な人材を活用する「ダイバーシティ経営」をはじめ、地域社会や子どもたちへの支援活動にも積極的。本業や社内制度などで、他の企業を牽引する取り組みと評価された。
熊本農高(熊本市)は「養豚プロジェクト」を進める。養豚業におけるゼロエミッション(廃棄物を一切出さない資源循環型の社会システム)の実現に向けた取り組みが評価された。
生徒たちは近隣の食品工場から出る17種類の食品廃棄物を調達し、新しい飼料を開発。熊本県産業技術センターの協力の下、肉質・栄養価などを分析し、食品廃棄物だけで豚を育てる技術を確立した。食品企業と畜産農家の仲介も担い、食品廃棄物の処分費や飼料費を削減することで双方の利益向上にも貢献している。
活動に取り組んでいる生徒たち。手に持っているのは、開発した洗濯せっけんやオリジナルのブランド豚肉「シンデレラネオポーク」など
また、肉を整形する際に大量に廃棄される豚脂(豚の脂)にも注目し、有効活用して洗濯せっけんを開発。汚れの落ちる度合いや環境に与える影響などを既存商品と比較して数値化し、品質の高さと環境負荷の少なさも証明した。豚脂を抽出する際に出る搾りかすは養鶏飼料として活用している。
せっけんはクリーニング業界に販売しているほか、福祉施設への製造委託を始めている。循環型社会の実現を地域から目指す高校生の取り組みは、まさに「未来づくり」と呼べるプロジェクトといえる。
天草高科学部(天草市)は「天草ブルーカーボンニュートラル」と銘打ち、全国的に減少している海草のアマモを植えてアマモ場を再生させることで漁業に貢献し、脱炭素を目指している。
アマモ場の現地調査をする部員たち
部員は29名で、丈夫なアマモを育てるための実験などに励んでいる。2021年10月と22年8月には天草市と環境シンポジウムを開催し、その中でアマモ定植体験会を実施。今後は廃校プールでのアマモ養殖も検討している。
加えて、魚ふんを使ったアマモ専用肥料や、アマモを原料とするバイオ燃料の研究・開発も進めている。
菊池市立図書館(菊池市)は多文化共生社会を目指し、ユニークな取り組みを実施している。
その一つが、外国人との意思疎通のための「やさしい日本語」の普及啓発活動。市民と行政職員向けの講座など実施しており、短く分かりやすい日本語を話すことで外国人住民とのコミュニケーションを取りやすくする狙いがある。
やさしい日本語講座の様子
他にも交流型の日本語学習の場「にほんごカフェ」や、JICA熊本と連携して多文化への理解を促すイベントを開くなど、日本人と外国人が交流できる機会を数多く創出。本を貸し出すにとどまらず、多文化交流の拠点へと発展しており、在住外国人の孤立化防止にも貢献している。
応募者名 |
取組みのタイトル |
公益財団法人 肥後の水とみどりの愛護基金 |
持続可能な地下水を守る活動 |
【大賞】
応募者名 |
取組みのタイトル |
株式会社肥後銀行 |
全行挙げたSDGsへの取り組みによる持続可能な地域社会づくり |
【優秀賞】
応募者名 |
取組みのタイトル |
株式会社イノP |
地域と畑は自分たちで守る! 〜住み続けられるまちづくりを目指す若手農家の挑戦〜 |
株式会社Lib Work |
家づくりを通じたサスティナブルな社会実現への取り組み |
【入賞】
応募者名 |
取組みのタイトル |
株式会社アミカテラくまもと益城工場 |
焼却処分からの脱却。資源を最大限に有効利用し、環境保全も担う企業を目指す |
株式会社杉養蜂園 |
健やか農蜂業の実践 |
西田精麦株式会社 |
食品会社としてのSDGsの取り組み。健幸穀物の栽培を通じた途上国の貧困支援と地域社会との多様な連携の構築による持続的社会の実現 |
【大賞】
応募者名 |
取組みのタイトル |
養豚プロジェクト (熊本県立熊本農業高等学校) |
廃棄豚脂の有効活用に関する研究 ~養豚業におけるゼロエミッションへの挑戦~ |
【優秀賞】
応募者名 |
取組みのタイトル |
菊池市立図書館 |
誰一人取り残さない多文化サービスを目指して |
熊本県立天草高等学校科学部 |
天草から世界を変える、天草ブルーカーボンニュートラル |
【入賞】
応募者名 |
取組みのタイトル |
菊池市立菊池南中学校 |
持続可能な社会づくりを目指し行動する生徒の育成 |
熊本県立水俣高等学校 |
コミュニティ・マネジメントによる「みなまたMOYAIST」の養成 ~Wood Connect Project&イノシカハンターズ~ |
熊本まちなみトラスト |
熊本における歴史的建築および町並みの保存利活用によるまちづくり |
小林牧子(熊本大学/盲学校用教材開発普及サークルSoleil) |
視覚障碍者用学習教材の製作・寄贈による社会貢献 |
熊本日日新聞社は、メディアの垣根を越えてSDGs推進を呼び掛けようと、動画投稿サイト「ユーチューブ」の短編動画を制作した。
環境問題などを配信する「RICEメディア」とコラボ。昨年12月末から、RICEのユーチューブチャンネルなどで公開中。再生回数は12万回に上っている。
動画の一場面。マイボトルを持つRICEメディアのトムさん(左)と熊日社員
動画では、「くまにちSDGsアクションプロジェクト」を担当する熊日社員とRICEのトムさんこと廣瀬智之さん(27)が、「マイボトルに入れた熊本の水道水をどちらがよりおいしく飲めるか」を対決。リアクションを交えながら、熊本の水の豊かさとマイボトルを使用する大切さをアピールしている。
今後も多様なメディアと連携して、SDGs推進の情報を発信する予定。